独立開業を目指す公認会計士・税理士の方向けの記事

「失業」状態を恐れないことで得られる2つのメリット

独立開業時に開業届をすぐ出す必要が無い場合にやった方がいい事

独立開業するにあたっては、事前に仕事のあてがある場合と、特にあてが無い場合とがあると思います。独立直後からバリバリ動くんだ!と思っている方はすぐに開業した方がいいと思いますが、しばらくは退職金等で凌げるという場合、やめた後ちょっとのんびりしたいと思われている場合には得する方法があります。

失業手当(再就職手当)

以前の記事で簡単に触れましたが、いったん失業状態になることで、失業手当を受け取ることができるようになります。私が前職の監査法人に入った当初は「士業は雇用保険料を支払っているのに失業手当を受け取れない」というのは常識でした。なので、いまだにもらえないと思い込んでいる士業の方はもしかしたら結構いるかもしれませんが、平成25年に法改正によりもらえるようになりました。

士業が失業手当をもらえなかったのは、恐らくですが士業は常にどこかの法人に所属するか、事務所を開業している状態になっていないといけないというルールがあるためだと思います。私も監査法人を退職する際に個人事務所の開業申請を公認会計士協会に届け出ました。これを以て開業状態にあると考えられていたため失業状態が存在しえなかったのだと思います。

しかし実際には、監査法人を辞めて特にお客さんもおらず、転職先を探していれば失業者と変わりません。実際にハローワークに行って再就職手当をもらう際には開業の根拠は他の個人事業主と同様、税務署に提出する開業届になります。士業の方で「私、辞める時に協会に開業申請してしまうけど…」と思っている方はそれは気にする必要はありません。協会に提出する開業の申請はハローワークに提示を求められません。

ただ、通常はすぐに転職なり開業なりして失業状態の士業の方は珍しいと思いますので仮に知らなかったとしても「どっちにしても対象外だった」という方の方が多いかもしれません。

しかし、私のように「すぐに仕事のあてがあるわけではない」「しばらくは退職金や蓄えで生活できるので半年ぐらいは収入ゼロでも焦らずやりたい」といった方は再就職手当の対象となる可能性が高いです。

再就職手当をもらえるまでの流れ

退職してしばらくすると、離職票と共に「ハローワークに行ってみて」という趣旨のことが書いてある書類が届きます。何のために行くのかというと、その日を起点に待期期間や失業認定日を確定するためです。なので、この最初に行くタイミングが遅くなればなるほど失業認定日等も遅くなります。また、この時点で転職や開業をしていて失業していないのであれば行く必要はないです。再就職手当ももちろんもらえません。

再就職手当をもらうためには、「転職も辞さない」という気持ちが必要です。要は働きたいけど迷っている状態でなければいけません。「絶対に独立開業以外の選択肢はない」と思っていて、その旨をハローワークの窓口で伝えたらその時点で対象外です。

これは気持ちの問題なので、少しでも転職する気持ちがあればいいと思います。私も前職よりも条件がいい転職先が見つかれば転職も辞さないつもりでした。実際にはそんな転職先を探すのはかなり難しいと思いますが。ハローワークの窓口では「転職するか独立するか迷ってます」と伝える必要があります。

初回に色々と書類をもらったりしたら、待期期間中に就職していないことを確認する初回講習や雇用保険説明会の日程が決まっていきます。で、再就職手当をもらうには、退職後初めてハローワークに行った日から待期期間7日+1ヵ月間後に独立開業する必要があります。それまでは、明らかに独立開業したことがわかるような行為はできません。事務所を借りたり、業務委託契約を開業した社名で取り交わしたりといったことです。気持ちの問題は外見からは判断できないため、このような外見で判断できるところで判断されるようです。それはちょっと無理だということであれば、あきらめないといけません。私は自宅開業だったこともあり、事務所を借りる必要もありませんでしたし、契約を取り交わすこともありませんでした。

私の場合は待機期間経過後の初回認定日が10月17日だったと思います。なので1ヵ月ちょっと後の11月22日に開業届を提出し、その日にハローワークに開業する旨を伝えに行きました。すると、開業準備を前からやってませんでしたというチェックリストのような書類を書かされ、1ヵ月以内に事業が開始されたことがわかる書類(業務委託契約書や事務所の賃貸借契約書等)と申請書を後日送付するようにと書類を渡されました。

ちょうど一か月以内に業務委託契約を締結する案件があったので、12月の後半に申請書と共にそれを提出すると審査が行われ、電話で事業を続けているか等の質問を受けましたが、無事審査を通過し、1月16日に再就職手当が振り込まれました。

再就職手当は早々に就職してもらうために失業手当の一部を早期就職の見返りとしてくれる制度のため、失業手当同様課税所得になりません。下手すれば開業したとはいえしばらく無収入の生活になるかもしれませんし、条件がマッチするのであればぜひ挑戦していただきたいと思います。

国民年金の免除制度

いったん失業状態になることのもう一つのメリットは、国民年金の免除申請ができるということです。雇用保険説明会に出席した際、帰ろうとしたら出口の所で、「国民年金の免除申請を受け付けてます!」と呼び掛けている人がいたので、話を聞いてみると、申込書を書くだけで免除申請ができるとのことでした。

「審査が終わるまでに時間がかかるため、納付書は送られて来ますが無視してください」と言われ、納付書が送られてきて納付期限も過ぎてしまっていましたが本当に無視していました。すると、1月27日に退職直後から9か月間の全額免除の通知が届きました。国民年金も妻の分と二人分を毎月負担しなければならず馬鹿になりません。

当然、最終的にもらえる年金の額も減ってしまいますが、今できるだけ手許にお金が残っている方が重要です。独立して事務所を開設すれば定年がありません。また、慎ましく生きていくのであれば老後そこまでお金は必要ないのではないかと思います。私の両親を見ていても(母は昨年他界してしまいましたが)、「そんなにお金を貯めてどうするつもり?残さなくていいから悔いの無いように使えばいいのに」と思うほどほとんどお金を使っているように見えません。

国民年金の免除は、日本年金機構のサイトを見ると「前年所得が一定額以下の場合や失業した場合など」と記載があり、すぐに独立開業してしまうと前年所得はたくさんあるでしょうから適用されないと思います。逆に、1年間収入がほとんどないなど開業2年目になったら適用を検討する機会があるかもしれません。

また、私が全額免除を認められたことから、審査の途中で就業しても申請時点で失業していればいいようです。この制度も、初期投資がかさみ収入も不安定な最初の時期には大変ありがたい制度なので再就職手当とともに活用した方がいいと思います。雇用保険説明会後の免除申請では配偶者や扶養家族の年金については、免除申請ができず、別途申請が必要なようですので、家族の年金も払う必要がある場合は役所に行く必要がある点は注意する必要があります。

「失業」という言葉を聞くとなんとなく恥ずかしいような情けないような気持になるかもしれません。でもうまくこの状態を使えば最もキャッシュフローに不安がある初期に、かなりのアドバンテージを得ることができます。