医療法人や社会福祉法人に義務化された会計監査
今まで公認会計士による会計監査の対象となっていなかった医療法人や社会福祉法人が平成29年4月から監査対象となり、公認会計士業界からすると新たな市場の拡大になりましたが、医療法人や社会福祉法人からすれば監査コストの負担増となり対応に苦慮するなか、監査が始まっています。
今まで会計監査が当たり前だった民間企業にとっては、規模が大きくなったり上場したりすれば監査を行うのは当たり前であり、やらなければ上場もできないため監査コストの負担増は会社を大きくする中で織り込み済みの話ですが、医療法人や社会福祉法人にとっては降ってわいたような負担増になり、出来るだけ安く済ませたいのが本音だと思います。しかし、監査というのはもともと大企業を想定しているため、どんなに安くとも数百万円~というのが相場です。しかも最低ラインの金額ではいわゆるビッグ4と言われる四大監査法人(EY新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツ、有限責任あらた監査法人、PwCあらた有限責任監査法人)は採算割れしてしまい引き受けることができません。また、今まで一度も監査を受けたことが無い法人が一切の会計基準の誤りもないということはあり得ず、大手監査法人のブランドを毀損するリスクに見合わないというのも大手が手を出せない要因となっています。
監査というのは保険業界と似ているところがあり、会計基準の間違いがある自覚がある法人ほど監査を受けて保証してもらいたいと思う一方で、監査をする側はできるだけ会計基準にきっちり従っている健全な法人を監査する方が労力もリスクも少なくて済みます。これが、体調に不安がある人の方が保険に入りたいと思う一方で、保険を使う可能性が低い健康な人に保険に入ってほしいと思う保険会社との関係に似ています。
通常は税務基準によって作成される医療法人・社会福祉法人の決算書
大手監査法人の手が出せない領域となった、医療法人・社会福祉法人の会計監査は中小会計事務所の新たな監査市場として開かれましたが、金額が低く工数が割けないという事情は大手だろうが中小だろうが変わらないうえ、十分な監査リソースが無い会計事務所が対応することになり監査品質の維持が課題となっています。しかも、今まで医療法人や社会福祉法人は金融機関からの借入や税務申告という、中小企業と同じ目的で作成されていました。
このため決算書の作成は主に顧問税理士の指導の下行われることになり、税務上のルール(いわゆる税務基準)に従って作成されているのが一般的です。税務基準は納める税額を計算する目的で作成されるため、架空収益の計上に関してはノーマークで、費用の計上に厳しくなるという本来の会計基準とは真逆のベクトルになっています。それも金融機関からの監視である程度は抑えられているでしょうが、金融機関はキャッシュの流れに特に注目するため、減価償却費のような発生主義会計の非資金損益項目というキャッシュが動かない数値には比較的寛容です。
こういった所で監査品質を向上させるためには、より少ない労力で監査を行えるような仕組みが必要になってきます。今後は、遠隔で会計システムに直接アクセスして閲覧しつつ、メールやチャットでコミュニケーションを取りながら本当に対面が必要な時だけ現場に訪問するというようなスタイルになって行く必要があるのではないかと思います。そのうち会計システム自体に監査機能が実装されて、ランダムにサンプリングするとか、必要な証憑を画像添付しているかチェックするといった機能が実装されてくると自動化も進むと思います。