監査

私募債をより身近に―Siiiboという新たな可能性

知らない番号からの電話にはあまり出ないようにしているのですが、先日たまたま電話を取ったらSiiiboという会社からの営業電話でした。私募債を簡単に発行できる仕組みを作ろうとしているというアイデアが面白かったのと、特に登録料も必要ないとのことでしたので登録することにしました。

資金調達の種類

資金調達には、大きく、借入金と出資があります。借入金は文字通りお金を借りること、出資は返済義務が無いお金を募ることです。出資は返済義務が無いのでそっちの方がいいと思われがちですが、その分要求される見返りも大きく、配当という形で借入利息より厳しいリターンを要求されます。

借入金の調達方法として、間接金融と直接金融の2種類があります。間接金融は、金融機関からの借入です。なぜ間接かというと、金融機関は預金という形でお金を集め、間接的にお金を貸しているからです。一方で、直接金融というのは、お金を貸してくれる人と借りる人が直接やり取りするケースです。社債はお金を貸してくれる人を会社自らが募るので、直接金融になります。

さらに社債には公募債と私募債があり、公募債は広く証券会社を通して不特定多数の人を対象に貸してくれる人を探すのに対し、私募債はごく少数の特定の人にお金を貸してもらうというものです。

詐欺によく利用される私募債

ところで私募債はごく少数の特定の人から貸し付けを募るため、よく詐欺の話を聞きます。「ここだけの話、あなただけに…」といった形で高い利息の社債の話を持ち掛け、最初少額の貸し付けに対しては利息をきちんと支払って信用させ、徐々に額を大きくして最後は行方知れずになるという手口です。

先日記事にしましたが、社債はその会社がつぶれない限りは元本割れのリスクがありません。また、定期預金や国債に比べても利率が高いため非常に魅力的な金融商品になりえます。そこを利用して、相手の欲に訴えかけ、お金をだまし取ります。私募債は本当に特定の少数に対して募るので、欲に駆られて騙されてしまうのもうなずけます。誰にも言わないようにと言われてこっそりやったあげく、誰にも言えない話になってしまうという落ちです。

この話は、そんな私募債のダークなイメージを払拭するのではないかと思います。

クラウドファンディングという直接金融が発達した現代

ITの発達は個のつながりを想像以上に強化しています。かつて大組織に所属していなければ得られなかった人脈・知識のネットワークが個人同士で容易に形成できるようになりました。一握りの芸能人しか芸事で食べていけなかったのがYoutuberという個人が芸事で大金持ちになる時代になり、このブログもそうですが個人が広く情報発信することが可能になっています。

そうした中、クラウドファンディングも個対個の出資の方式で、昔では考えられないほど簡単に個人の少額の出資を集められるようになっています。

私募債の新たな形

出資でできていることが、社債でできない道理はありません。クラウドファンディングは様々な見返りを用意していますが、私募債でこれをやる場合は見返りがお金、利息になるという事です。

金融機関の中抜きを回避できるため、発行する側も貸す側もリーズナブルな利息で契約することが出来ます。このアイデアは、お金を借りたい小規模な会社にとってもありがたいのではないかと思います。

話を聞いていて感じた壁

ところで、なぜこの話で私に営業の電話がかかってきたのかというと、「私募債を発行する会社の任意監査をやって欲しい」という名目での電話でした。もちろん他にも目的としては、顧問先で私募債発行を希望するところはないかとか、貸してくれる投資家のあてはないかとか、いろいろあると思いますが、公認会計士事務所に電話を掛けたメインの理由は「監査」です。

しかし、社債を発行する会社の規模にもよりますが、「これは一筋縄ではいかないのではないか」と感じます。まず監査でその会社を「保証」するのであれば、最低でも数百万円の監査報酬が必要になります。これでは社債発行の利息どころの騒ぎではなくなると思います。そこで、百万円未満に抑えて…などとなってくるでしょうが、それでは保証するような本格的な監査は実施できません。

もちろんやろうと思えば監査報告書にサインをすることはできますが、公認会計士協会が黙っていないと思います。そういう安値で、ろくに監査手続を踏まずに監査報告書にサインする会計士はすぐに調査され怒られます。目立たない間は気が付かないかもしれませんが、話が大きくなって来たらすぐに気が付くと思います。そこで、現実的にはあくまで保証なしの任意監査ですという話になってきます。

たとえば、財務デューデリジェンスのように、公認会計士の独占業務としてではなく、誰でもやれる仕事として定義してしまえば、会計士協会の範疇から外れます。財務デューデリジェンスもよく買収監査という表現が使われますし、税理士が月次で行う会計処理のチェックも月次監査という表現が使われますが、どちらも公認会計士の独占業務ではないため目くじらを立てられることはありません。

しかし、そうなると今度は投資家の方が「そんなんで意味あるのか」という話になってきかねません。

公認会計士にとって独占業務としての「監査」「保証」という言葉はとても重く、契約等を行う際にも慎重に扱わないといけない言葉です。そのあたりの肌感覚は公認会計士でないといまいちピンとこない所だと思います。

今のところ本格的に開始していないので、なんとなくふわっと「公認会計士に任意監査してもらって信用力を担保しよう!」というアイデアベースの考えだと思いますが、現実に任意監査とは何かを定義しようとすると結構ややこしい話が待っていそうな気がします。

実際には、幼稚園の監査のように少額で実施せざるを得ない監査もあるため、そういった実例をもとに妥協案を考えていくのが現実的かと思います。

とはいえアイデアは魅力的

とはいえ、この「保証不要で柔軟な、金融機関に頼らない資金調達」を支援するというアイデアは素晴らしいです。ITの力によって実現可能になった個対個の直接金融の可能性には期待しますし、応援したいと思います。

本格的なサービス提供は来年以降になるそうですが、また本格的に動き出したら記事にしたいと思います。