リードタイム短縮が競争優位を生み出す
トヨタ生産方式の開発者である大野耐一氏や小説ザ・ゴールで有名になった制約理論のエリヤフ・ゴールドラット氏が提唱していたのは、「リソースのムダではなくフローのムダを排除する」ということでした。そうすることで、キャッシュが製品や固定資産のような資産に変わり、より多くのキャッシュとして戻ってくるまでのリードタイムが短くなり、より変化に強い組織になるということに着目していました。
私はこの二人の考え方がとても好きで、業務効率化やプロジェクト管理等のコンサルティングを行う上での基盤となっています。リソースのムダは排除する必要はなく、むしろ重要な余力です。着目すべきはキャッシュをいかに短期間にキャッシュとして回収できるか、つまりフローのムダをどれだけ排除できるかにかかっています。
ストーリーとしての競争戦略
はっきりとこの話の事例として出されていたわけではありませんが、 非常にわかりやすかったのが、「ストーリーとしての競争戦略」という楠木建という一橋大学教授が書いた本の中で出てきたガリバーインターナショナル(以下ガリバー)の競争戦略の話でした。
中古車買取専門という言葉は、今ではけっこう一般的に認知された言葉になっていますが、ガリバーという会社がこの言葉をキャッチフレーズにビジネスを展開するまではこんな言葉はありませんでした。
普通に考えて、買取専門って売らないでどうやってビジネスが成立するの?という話です。ガリバーは中古車販売もやっていますが、基本的なビジネスモデルとしては買取専門です。当然買い取った中古車はどこかに売らなければなりませんが、消費者に売ることを想定していません。買取専門というのは、消費者から見て買取専門に見えるということです。
ガリバーは買い取った中古車をプロのバイヤーの間で売買されるオークションで売却することで、キャッシュ→中古車→キャッシュのリードタイムを劇的に短縮することに成功しました。
プロのバイヤーの間で売買されるオークションにはそれまでロクな中古車が出回っていませんでした。それも当然で、いい中古車はオークションに流さずに手元に残しておき、高値で消費者に売った方が得られる利益が大きいためです。ガリバーはそこに自社が買い取った良品も次々に流し、良品であるがゆえに即売買が成立するという状況を作りました。
こうして「消費者にいつ売れるかわからないけれども売れたら利益が大きい」というメリットを捨て、「確実に短期間に売却できるけれども利益は小さい」というメリットを選択したことで他社に比べて棚卸資産の回転率を圧倒的に高めて競争優位を築き上げることに成功しました。
具体的な数字で説明すると、100万円で中古車を手に入れ、120万円で消費者に販売するのに1年かかったとします。1年間の利益は20万円です。それを、100万円で中古車を手に入れ、10日以内に102万円で販売しつづけたとするとどうでしょうか。1年間の利益は2万円×36.5=73万円になります。ガリバーがやったのはこういうことです。
優れた競争戦略は面白いストーリーになっている
オークションに出品すると、プロの目で見られるため、そうそう高い値段では売れません。しかし、買取の時点で薄利でも確実に利益が出るように買い取り、すぐに売れるオークションで売却することで、いつ買ってくれるかわからない消費者を待つよりもはるかに短い期間でより多くのキャッシュを手に入れることができます。また、買取専門のため展示スペースが不要になり、土地建物等の固定資産も非常に少なくて済みます。
しかも、同業他社は「オークションで売っても儲からない」という業界の常識に囚われて、なかなか真似をしようという気になれません。これが参入障壁となり、競争優位が崩れずに維持されます。このように、優れた競争戦略はすべての要素が一つの物語のように連鎖的につながっており、他者が一部分だけ真似をしようとしても上手くいかない戦略になっているというのが「ストーリーとしての競争戦略」という本の趣旨で、他にもいろいろな成功した企業の事例が紹介されています。