トヨタ生産方式・制約理論に共通している目指すもの
本を読んでいて、読むのをやめられず気が付いたら朝になっていたという経験が何度かあります。その本のひとつがザ・ゴールでした。ちょうどコンサルタントとして新卒社員だった頃で、非常に多くのヒントを得ました、この本が出てから「ボトルネック」「制約条件」という言葉が普通に使われ始め、不完全ながらも制約理論というのが与えたインパクトというのは大きかったと思います。
その後も著者であるゴールドラット氏がが出版した本は大抵読みましたが、どれも何度も読み返したくなる本で面白かったです。この考え方の中心にあるのは、リードタイム、つまり時間です。成果までの時間をいかに短くするかという発想です。そして制約理論のアイデアのベースになっているのが、大野耐一氏が提唱したトヨタ生産方式になります。
大野耐一氏の「モノづくりの真髄」という講演CDを何度も繰り返し聞きましたが、ゴールドラット氏もこの話を聞いたに違いないと感じる話が随所に出てきます。実際に、著書の一つで大野耐一氏の話を参考にしたというエピソードが出てきます。
このザ・ゴールは「日本に知られたらアメリカが日本に差をつけられてしまう」という理由で10年以上翻訳が許されなかったという話があり、これはちょうど出版された時期がジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた日本がアメリカに次ぐ経済規模を持つ大国だった時期に重なるためでした。そしてこの話は、大野耐一氏が「英語の頭文字でかっこいい名前にしたらすぐにアメリカにバレてまた差をつけられちまうから、『かんばん』ならアメリカ人には何のことやらわからんだろうという事で『かんばん方式』という名前にした」という話を踏まえた話だと思われます。
日本がアメリカに次ぐ経済規模の大国で、アメリカ人にいつ抜かれてもおかしくない脅威として恐れられていたなんてもはや信じられないほど様々な国に追い抜かれてしまっていますが、それはさておき、この二つの話に共通するリードタイムをいかに縮めるかという話は単純な「即断即行」という話ではありません。
例えば、成果を出すタイミングが決まってしまっている場合、〇月〇日にものができなければならないというケースでは、できるだけ早くという考え方でスタートしてしまうとリードタイムはむしろ伸びてしまいます。この場合、スタートの時期はあえて遅らせるという事も必要になってきます。
また、リードタイムを短くするにはいわゆるロットサイズをできるだけ小さくし、究極的には1個づつ作るのが理論上はもっともリードタイムが短くなります。これも、まとめて作った方が段取り替えの回数が少なくなるため、短い時間でできるような気がしますが、それは大きな誤解で、まとめて作ろうとすると、すぐにはいらないものをついでに作ることになるため、いらないものを作っている時間分リードタイムが伸びてしまいます。
アジャイル開発・サプライチェーンマネジメント、全ては時間という資源をどう使うか
ロットサイズを小さくするというのは、小さな成果を積み重ねるアジャイル開発に共通し、サプライチェーンマネジメントは消費者の動向を最上流のメーカーまでリアルタイムに把握することで、必要なタイミングで必要なものを必要なだけ作るというのを目指しており、これもリードタイムの話になります。
時間という資源は、何かをしてもしなくても一定のペースで消費されていくためできるだけ詰め込みたいというのが自然な反応ですが、一個人としてはとにかくいろいろな経験をした方が人生は豊かになるかもしれませんが、組織的に動く場合には待機して何もしない時間が重要になってくる場合もあり、これは、例えば体を動かす時にほとんどの部位の力が抜けていないと、まともに動くことができないという話に通じるものがあります。