ブランディング出版という、本のブランドイメージを利用したイメージ戦略があります。かつては本を読みたい読者のために出版されていた本ですが、今は本を出版したい著者のためのビジネスとなりつつあるようです。
ブランディング出版セミナーに参加してきました
同友会のセミナーで知り合った福岡の出版社、梓書院さんの前田取締役にご紹介いただいた「伸びる企業は出版社を活用している?!福岡の老舗出版社によるブランディング出版セミナー」に参加させていただきました。
大学の頃出版サークルに所属していたこともあり、もともと出版には興味があったのですが、最近は自費出版という方法を用いて自分のブランディングのために本を出すというのが比較的普通に行われるようになっているようで、色々とお話を聞けて参考になりました。
ちなみに、間違えてソラリアのセミナー会場ではなく、梓書院さんの本社に行ってしまい30分ぐらい遅刻してしまいました…。大事な話を聞き逃してしまったかもしれませんが、とりあえず一通り自費出版の流れがわかり、大変参考になりました。本社は千代県庁口から徒歩3分ぐらいのビルの3階にあり、女性が数名応対してくれてアットホームな雰囲気でした。
自費出版というビジネスモデル
最近は、尋常じゃない数の本が出版されること、本以外のメディア(私の実感としては動画視聴とスマホゲーム)に割く時間が大幅に増えた結果、縮小していく本の市場を多数の執筆者が競い合う状況になっています。無名の著者が何のつてもなくいきなり本を出したばあい1,000冊売れたらすごいぐらいのようです。逆に言うと、1,000冊は確実に売れるという見込みがある場合には出版社がリスクを負う企画出版という一般的な出版のイメージでの本の出版も可能なようです。しかし、1,000円の本を1,000冊売って、100万円。印税5%で5万円…。1冊の本の原稿書くのに1か月かかったとしたら時給換算で…考えたくもないですね。
出版社にしても、1冊出版して100万円でもすごいぐらいの本を多数の従業員が工数をかけて編集するのはリスクが高すぎてビジネスとして成り立ちません。正攻法としては、確実に面白い本を書ける執筆者に出版を依頼することで、儲けを出せばいいのですが、この多数の本が乱立する時代にはそれでもなかなか難しいということで思いついたのが自費出版というビジネスモデルなのではないかと思います。
出版社が出版のための経費をもってリスクを負いながら本を出版する企画出版が、「面白い本を読みたい」という読者のニーズを満たすビジネスであるのに対して、自費出版というのは、「本を出版してみたい」というニーズを満たすビジネスです。したがって、お客さんは本を出版する執筆者になります。本を出版したいと思っている執筆者は、出版費用を自分で支払い出版社に本を出版してもらいます。したがって、出版社は本を出版することが決まった時点で確実に利益を上げることができます。後は売れようが売れまいがあまり関係ありません。当然、流通のマージンも取っているので売れれば売れるほど儲かると思いますが、それはそもそも当てにしていないので売れる本である必要はありません。
これは、本というメディアそのものが持つブランド力に着目した、孫子のいう優れた「奇」だと思います。我々の世代にとってはSNSやブログが一般化し、こんな風に本なんて書かなくても世界中に発信できるような世の中になったとしても本というメディアは特別な思い入れがあります。本を出したというと、自費出版なんて言う仕組みを知らない人からみたら「すごい!」と思うはずです。
夢を売る男
個人的には自分がリスクを負って本を作る自費出版というやり方には肯定的です。自分が「これは絶対に面白い」と思っても企画出版だと出版社が応じてくれなければ本として出せませんが、この方法なら出版社はどんな本でも二つ返事で出版してくれます。単に本を出してみたい、本を書いている人として自分を宣伝したいという広告宣伝目的+万が一売れたら回収できるぐらいのつもりで出版するのであればいい方法だと思います。もちろん、出版には100万円以上の経費がかかり、気軽に使える広告宣伝ではありませんが、だからこそ本のブランド力が維持されると考えると、資金に余裕があればテレビ広告とかよりよっぽど息の長い宣伝ができて費用対効果が期待できると思います。
この自費出版をテーマに扱った夢を売る男という本を百田尚樹さんが書いています。本を出版したいと思っている人に高額の出版費用を出させてボロ儲けしている詐欺のような出版社が舞台になっている話です。私はここで自費出版の仕組みを知り、出版に興味があるから自分もこんな詐欺に引っかからないように気を付けなければいけないなと思いました。この本を読んでおらず、例えば「ブログを読みました、大変感銘を受けました。ぜひ本を出版しませんか」と営業を掛けられたらすぐ騙されると思います。そういったリスクを理解した上で、それでも本を出したいと、自分から出版社に依頼するのであれば自費出版はいい方法だと思います。ちなみに百田さんは無名の頃書店を行脚して自分の本を売り込んで回ったのだそうです。売れる執筆者というのは面白い本を書けるだけではなく人がやっていない努力をちゃんとやっているんだなと思いました。