好況不況の波と借金の関係
バブル経済と言われた未曽有の好景気の時期は私が社会人になる10年ほど前で、私が就職活動を行っていた時期は就職氷河期の1年目と言われるITバブルの終焉直後という時期でした。このように景気には波があります。
景気の波は借金と関係があります。人は借入を行うことで、将来の稼ぎを現時点に持ってきてお金を使うことができます。これは、将来の稼ぎによって返済する必要があるのですが、とりあえずお金が手に入ることでどのように使うこともできます。
景気が良くなり始める初期の頃、目ざとい人から「これからビジネスを拡大していけばどんどん儲かる」と思うようになります。こうなった時に、借入という手法が無ければ手持ちの資産を活用するしかありませんが、借入が行えることで将来の稼ぎを前借し、一気に投資を行って拡大することができます。
こうして借入れたお金はビジネス拡大のための投資に利用され、投資されたお金は誰かの所得になります。こうして、「将来の稼ぎ」を元手に現れたお金が世の中に循環していき、人の所得が増え始めます。すると皆が増えたお金を使うようになるためビジネスは上手くいきやすくなり、そのお金でさらに投資が行われ…と好循環が始まり、好景気の波が発生します。
これが過熱し始めると供給が追い付かなくなってきて物価が上がり始めます。みんなお金はあるから払えるのですが、物が無い・サービス提供できる人がいないので渡せないという状況で、より高いお金を払ってくれる人を優遇する状態です。物価が上がりすぎるとお金の価値が下がります。この時期になってくると、お金を貸す方も「将来はもっと物価が上がっているに違いない」と考え金利が上がり始めます。金利が低いと、最終的な返済が行われた時に課した時よりお金の価値が下がっていて相対的に損をしてしまうからです。例えば3年で返済する約束で100万円を貸すとします。金利は年単利5%で115万円返してもらうとします。しかし3年後に物価が倍になってしまっていたら、115万円では3年前の100万円で買えていたものが買えなくなっています。そこで、「このペースだと3年後には物価が倍になるぞ」と思ったら100万円を3年後には220万円ぐらいで返してもらえるように金利を設定しておかなければ貸すメリットがありません。
こうして金利が上がると借入が難しくなり、徐々に借入のスピードが落ちてきます。それまでは、過去の借入を現在の借入で返済することができていましたが、徐々にそれができなくなります。
そしてついに、借入の返済が新規の借入やビジネスでの収入で返すことができない時が来ます。これが景気のピークです。借入はいずれは返さないといけないお金ですが、返すという行為は新しい何かを生み出すわけではありません。こうして、新しい何かに投資を行い拡大する局面から借金を返すためにお金を使う局面に移ってくると、人の所得は増えなくなってきます。一方で、借金は高い利息で自動的に増え続け、とても返すことができなくなってきます。
こうなってくると、お金をいくら稼いでも借金の返済に持っていかれることになり、投資による拡大はおろか、増え続ける借金のペースに所得が増えるペースが追い付かなくなり借金が返済不能になります。借金が返済不能になれば新たな借金はできず、ビジネスは縮小し、獲得できる所得は減り…と好景気と反対の悪循環が始まります。これが景気の波の下降局面です。
こうなってくると、借金の棒引きを行わなければどうにもならなくなります。所得を増やせるのは国だけで、国が国債を発行して仕事を生み、強引に国民の所得を増やしてあげなければ突破口はありません。この状況は、借入の金利による増加ペースが所得の増加ペースを上回らないと改善できません。
借金の功罪
イスラム教では借金ができないそうですが、恐らくこの景気の波を生む仕組みについて警戒してのことなのではないかと思います。しかし、借入を行うことができることでタイムリーに投資を行うことができ、借入が無い世界よりも大きな発展を望むことが可能です。
ホテルや鉄鋼業のような大規模な投資を最初に行う必要がある装置産業のような業界が発展するためには最初は借入があるのとないのとでは難易度が全く変わってきます。
借金の額が大きいほど、てこの原理でより大きなビジネスを短期間に開始することができますが、他方で上手くいかなかったときのリスクも大きくなります。景気に波がある以上、できるだけ短期間にビジネスを開始して成功を収めたいというのはあるかもしれませんが、分相応の規模にしておかないと景気が悪くなった時に一気に窮地に陥ることになります。