節税を意識しすぎると事業が成長しなくなる?
税金は事業から見ると一方的なコストで、税金をたくさん納めたからといって直接事業に貢献することも無いのでできるだけ抑えたい支出です。このため、できるだけ経費として計上したいという動機が生まれますし、節税の一般的な手法として、当面使わないお金を一旦経費で計上して簿外に資産として形成するという手段が使われます。
もちろん、無駄に税金を支払うのはもったいないので、本来経費として計上できるものは経費に計上するべきだと思いますが、これが行き過ぎて「税金を支払いたくないから、別に使う必要もないお金を使って経費を増やす」となってくると、その行為で確かに税金は減るかもしれませんが実際に手元に残るお金も減ることになるため事業の成長のために投資することに使えたはずのお金が減ってしまうことになります。
また、経費に計上して簿外に資産を作っていくいわゆる課税の繰り延べという方法についても、キャッシュを将来にわたって拘束することになるため、そのキャッシュはすぐに使うことができず、迅速な投資が必要な時に上手く使えないという状況になります。
このため、「税金を払いたくない!」という気持ちが強くなりすぎると、本来事業の投資に向けて蓄えておかなければならなかったはずのキャッシュまで不要な消費に回してしまったり、長期間取り出せない状態にしてしまう可能性があります。
こうなってくると、節税の意識が事業の成長の邪魔をし始め、事業の規模を大きくできなくなります。事業の規模が大きくなればリスクも当然高まりますが、節税することによって得られた利益とは比べ物にならないリターンを得ることができます。節税を意識しすぎず税金をきちんと払いつつ事業を成長させていった方がはるかに多くの収入を得られるのだとすれば、その節税は「自分の収入を大幅に減らしてでも税金を払いたくない!」という税金を払わないことが最優先の事項になってしまっていることを意味します。
ソフトバンクやアマゾンの節税
「いやいや、ソフトバンクやアマゾンなんか超巨大企業なのに全然税金を払ってないし、節税しまくっても事業を大きくできるでしょう」という人もいるかもしれませんが、ソフトバンクやアマゾンの節税スキームは大企業ならではのグループ会社間の株のやり取りなどを使った非常に複雑で高度なもので、一般的な中小企業がとても真似できるものではありません。
超巨大企業ともなれば、スペシャリストを高額な報酬で雇用することも可能になるため、事業の成長とは関係ないところで節税に特化した検討チームを組成することができます。また、それら超巨大企業は成長する過程では投資する先はいくらでもあり、無理やり節税する必要はなかったのではないかと思います。
成長を始めると基本的にキャッシュは足りなくなる
公認会計士協会の記念式典でファーストリテイリングの柳井社長が講演された時に「事業が急成長していると、入ってくるキャッシュより投資によって出ていくキャッシュの方が大きいうえ、多額の法人税を納めなければならず、前年度の利益に対して法人税を予定納付することを考えると儲けの大部分を法人税で持っていかれてしまう。これが成長のスピードを抑制している」と言っています。
これは別の見方をすると、事業が成長している時には無駄にキャッシュを消費する余裕はないため過度な節税のための無駄な支出はできないという事を意味しています。この話は、経営学でいうプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの「花形」と「金のなる木」の話とも関係しています。
節税のために何とか経費を余計に使ってみたり、といったことをやりたくなるのはその事業が「金のなる木」の位置にある事業で、やがては「負け犬」になっていく事業ともいえます。この「金のなる木」の位置にある事業で生まれる余剰は「問題児」や「花形」の事業に投資して次の「金のなる木」を生む努力をしていかなければなりません。それができなければ、事業はやがて「負け犬」に向かい衰退していきます。
この観点からも、節税を過度にやろうとすると事業の成長が阻害されるということが分かると思います。