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活動基準原価計算をベースにしたコスト分析の弱点

業務効率化の効果測定に利用されるABM

活動基準原価計算(Activity Based Costing、ABC)という考え方があります。共通固定費の配賦基準を「活動(その共通固定費の利用回数や利用時間等)」にして精密に各部門に配賦しようという考え方です。この考え方を利用して、逆に「一つの活動にいくらコストがかかっているのか」ということを推定することができます。この「活動」を管理してコスト分析を行い経営に利用しようとするのが活動基準原価管理(Activity Based Management、ABM)です。

活動基準原価管理では、ストップウォッチやアンケートを通して1活動あたりにかかる時間を割り出し、作業者の人件費から人件費の時間単価×かかった時間でコストを推定しようとします。特にコアの業務に直接関係のないホワイトカラー、事務職の効率化のために利用しようとした試みが一時期流行りました。

この分析方法は理屈としてはわかりやすく、いまだにこの方法でコスト分析をする業務効率化プロジェクトはよくあります。私も前職で何度かこういったことをやるプロジェクトに参加してきました。

しかし、やっていてこの方法にはいくつか欠点があると感じていました。

欠点① 情報収集に非常に手間がかかる

この方法で活動単位でコストを割り出そうとすると、各活動にどれだけの時間がかかっているのかというのを調べる必要があります。一番正確に調べられる方法は、その作業を実際にやってもらい、ストップウォッチなどで計測することです。しかし、全ての作業にそれをやるには膨大な時間が必要になりますので、通常は簡便的な方法として実際に作業を行っている人たちにアンケートを配布し、回答していただきます。

対象が非常に小規模であればアンケートの記入方法を横で見ながら指示したり、質問にも詳しく答えられますが、この手のプロジェクトは往々にして広範囲にわたり、100人以上の人がかかわってきたりします。それらの方々にアンケートを配布し、質問に回答しながら期限までにすべてのアンケートを回収するというのはとても大変です。もっといえば、そのアンケートを作成するために各活動の分解するためのインタビューを実施する必要があり、全ての人の業務を一から棚卸していく作業にも相当な時間がかかります。

欠点② 情報の正確性に疑問が残る

膨大な時間と手間をかけてそのように情報を収集したとしても、回答の内容には疑問符がつくようなものが散見されます。例えば、1日の全ての活動の時間を足すと1日で30時間かかるとか、全ての人が絶対にやるであろう活動(メールチェック等の共通業務)に1分も記入がないとか、1日の回答時間が5時間ぐらいしかないのに普段遅くまで残業している部署であるとか。

活動の時間を正確に回答するには、①アンケートの回答の仕方を正しく理解していること、②自分の業務にかかる時間を正確に把握していること、といった条件が必要になってきます。しかし、いきなり調査しますと言われてこれらを問題なくできる方はむしろ珍しいでしょう。

調査をするから意識するようにと言われて1年ぐらいかけて準備しているならまだしも、そんな悠長なことはできないのが普通です。明らかに間違っていることが分かる場合は修正を依頼できますが、不明な場合はある程度不正確だったとしてもその情報を根拠に作業を進めるしかありません。

欠点③ 出た結果通りコスト削減されるわけでは無い

膨大な労力をかけて調査した結果に人件費の時間単価を算出して掛け合わせると、コスト削減効果というのが算出できます。しかし、この削減効果は実際にそれだけのキャッシュアウトを防ぐことができるという意味ではなく、労力を金額換算したらいくら分になるという意味になります。

金額換算する理由は、活動時間だけではその活動の価値が比較できないためです。派遣社員が実施している単純作業と、部長クラスが実施している承認行為のようなものを比較した場合、時間だけだと単純作業の方が長いですが、作業の重要性という意味では承認行為の方がより重要です。時間×単価にすることで、これらの作業を同じ基準で比較できます。

しかし、金額という単位は実際にコスト削減されるという印象を与えてしまい、誤解を招きがちです。

業務効率化を効率的に進めるためには

では、どのようにこのようなプロジェクトを進めればいいのでしょうか。アンケートを配布した時に、このような時間の情報の他に定性的な課題について自由記入欄に記入してもらうのですが、私はむしろこの情報の方が重要だと感じます。

結局、外部のコンサルタントがちょっとその業務について聞いた程度ではなかなか真の課題というのはわかりません。時間という定量情報から課題を探すのではなく、すでに現場で感じている課題を起点に課題の因果関係を整理し、真の課題を探すというアプローチの方が効果的に時間を使うことができます。

業務のインタビューについても業務をまんべんなく説明してもらうのではなく、課題に関連する業務を重点的に聞くことでリソースを集中します。プロジェクトを進める場合、どうしてもやるからにはすべてを網羅的に調査してしまいたくなります。しかし、それではリソースが分散し結局当り障りない総花的な課題整理と対応策の提示になりがちで漠然とした印象になってしまいます。

できるだけ真の課題解決にリソースを集中し、効率化の効果が大きいものをいくつか解決するために詳細まで詰めることが成功するポイントになります。