国民全体にお金を配るという壮大な社会実験
持続化給付金という法人や個人事業主で業績が大幅に悪化しているところにお金を配る制度ができました。法人は200万円、個人は100万円。別に業績が悪化しているわけでは無いところでも、上手いこと条件をクリアしてくる法人や個人事業主はたくさんいると思われる制度設計です。しかし、それを排除するために時間をかけて審査する時間はなく、とにかく本気で困っている人にいち早くお金を届けようという国の意気込みを感じます。
また、国民一人当たり10万円も給付するという定額給付制度ができています。これも同様に、別に困っていない、コロナのおかげで潤った人もいると思いますが、そういう人は排除して、困っている人だけより分けてとやりだすといつまでたっても配れないため、一律で配るという制度です。
この試みは、仕事の対価としてではなく、お金をただ配るとどうなるのかという壮大な社会実験でもあります。かつて、リーマンショック時にも一人12,000円が配られましたが、さすがに金額が少なすぎます。1億人に12,000円くばると、国は1兆円以上の負担になったので相当頑張ったつもりだとは思いますが、ふつうに自分が12,000円を渡された時に大きく行動を変えたりはしないと思います。
今回は、収入が途絶えて生活が困窮する人をしばらくは救済できる程度の金額になります。単身の給与所得者だと10万円しかもらえませんが、給与を支払う事業者に雇用調整助成金等でお金が回っており、給与が払えずクビになったり支払いが滞ったりはしないと考えると、しばらくは何とかなるのではないかと思います。
給付は一度きりで、この状況が長期化するとさすがに焼け石に水になると思いますが、リーマンショックの時よりはまだまともな政策だと思います。財源は国債を発行して賄うことが可能です。国債が発行され、日銀がその国債を購入すると、会計的には政府の負債が増加し、日銀の資産が増加することになりますが、連結すると債権債務は相殺されます。
以前からあるお金をただ配る制度
以前から、お金を仕事の対価としてではなくただ配る制度が存在しています。ベーシックインカムです。本格的に導入している国はまだありませんが、試験的にベーシックインカムを実施してネガティブな結果になっている国は無いようです。最低限生活できる一定額を全員に一律配り、働いた人はその分はもらえるという制度が整備されれば、このような状況で国民に自粛を要請した場合に生活のために外に出ようとする人は減るでしょうし、異常事態のたびに毎回対応策を検討する必要もなくなります。
それでもこの制度を実際にやろうと考える国が今のところないのは「お金とは何か」というお金の本質にかかわる部分を問うているからだと思います。お金は信用を定量化したものであるとか、債権債務の記録であるとか、色々と定義がありますが、どういった定義であれ何の理由もなくただ与えられるものではありません。本当にそんなことをして大丈夫なのかというのは確かに不安ですし、やり始めたら引き返すのも難しいためなかなか踏み出せないというのもわかります。
そういった意味でも、今回ヨーロッパの方では大々的に給与の保証を国が行ったり、多額のお金を国から民間に流し込んでいるため、そんなことをして副作用はないのか、その結果どういう効果があり、どういうダメージがあるのかといったことを試すことができる興味深い機会だと思います。