管理会計で問題になる固定費の配賦基準
会計をうまく利用して会社を経営していきたいと考えた時に、管理会計の話になります。財務会計の情報をうまく使っても会社の経営は可能ですが、財務会計は主に利害関係者への報告を目的としているため、より意思決定に有用な情報を得たいと考えるのであれば管理会計の考え方を取り入れる必要があるというのが主な理由です。
管理会計は「会計データから経営意思決定に有用な情報を手に入れる」という目標を達成できれば特に共通のルールがあるわけではありません。そこで様々なやり方が考え出されました。その中でも、費用を変動費と固定費に分解(固変分解)し、売上に対して変動費だけを引く限界利益の考え方と、そこから生まれる損益分岐点分析など、直接原価計算と言われる管理会計は最もメジャーな手法です。
会社1社の直接原価計算を行う場合には特に問題になりませんが、社内の複数の事業に対しての直接原価計算、各商品・製品に分解して検討する直接原価計算の場合には、共通の固定費(本社機能の人件費や建物賃借料、共通で利用している機械等)をどう負担させるか(会計の世界では「固定費の配賦」と言います)がよく問題になります。
例えば、事業部Aと事業部Bがあり、Aは売上高5億円、変動費3億円、Bは売上高1千万円、変動費100万円だったとして、双方共通の固定費が1億円あった場合、半分づつ負担させてしまったらBは大赤字で即撤退する必要があります。
しかし、Bはこれからもどんどん成長することが見込まれていて、やってもやらなくても固定費が変わらないとしたら撤退すべきではありません。ということはつまり、管理会計から提供される情報が誤っているということになります。
管理会計の世界では、この「固定費をどう配賦するか」というテーマについていろいろな研究がされ、出来るだけ厳密に負担させようとして、活動基準原価計算という考え方がうまれました。この考え方は、例えば同じ機械を使うにしても機械の利用回数や利用時間、建物の賃借料や減価償却費は各事業の利用面積、人件費は人数等々、固定費ごとに細かく各事業や商品・製品ごとに利用度を調べて負担割合を決めていこうという考え方です。
そうすることで、固定費のより適正な負担割合というのは理論上出ると思いますが、先ほどのB事業部が、そのように計算した結果「1,500万円の固定費を負担すべきということがわかりました」となったらやはり撤退という意思決定になってしまいます。しかし、固定費はやろうがやるまいが変わらないとすると、限界利益ベースで儲かっているのであればやらないよりやった方が確実に利益が増えるはずです。
固定費は配賦する必要が無い
しかも、そのように細かく配賦するために調査だなんだと外部の専門家に依頼してとか、従業員に残業ベースで調べてもらってとかやってしまってはコストが増えてしまいます。その結果、上述のように間違った意思決定がなされてしまっては目も当てられません。
経営者から見ると固定費も含めた責任を各担当者に意識してもらいたいという気持ちはよくわかりますが、固定費は無理に分けようとすると前述のように意思決定に歪みが生じてしまいます。固定費は固定費として別途管理し、各事業部や商品・製品といったセグメントから得られる限界利益が共通の固定費という器に流れていき、溢れたところから全社的な利益になるというイメージを持つべきだと思います。
固定費の器を会社の機能を損なわずに小さくできるかどうかは、各セグメントの責任者に委ねるのではなく全社的に検討し、各セグメントの責任者は限界利益の増大に注力するというのが、最も健全な経営を行う方法だと考えます。