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人は損することがとても嫌い-プロスペクト理論とサンクコスト

人にとって得できる事よりも損しないことの方が重要

私が子供だった頃、年賀はがきのくじで当たった切手をハガキに貼って出したら「60円切手でよかったのに、80円切手を貼って出した!」と母に激怒されたことがあります。もともとは無料でもらえた切手、損した金額はわずか20円。それほど暮らしに困窮しているわけでもなかったと思いますが、かなり怒っていたので印象に残っています。

人は損をすることを非常に嫌います。期待値的には得するケースでも、損する可能性がある場合はやらなかったりします。典型的なパターンが株式投資等の投資です。元本割れするぐらいならタンス預金でいいと思っている人は多数いると思います。

最近投資が活況を呈しているように見えるのは、一獲千金を狙えるような印象操作のせいです。はっきりと数値で「今からやる取引の成功率は20%です。成功すると倍になりますが、失敗すると投資したお金はゼロになります」と示されたらやろうと思う人は激減すると思います。実際には成功している人はほとんどおらず、ごく一握りの人だけなのですが、「誰でも簡単に楽々儲かる」という印象で参加者を増やしているというのが現状です。

得するより損しないことの方を優先したくなる心理をプロスペクト理論と言います。このため、プロスペクト理論を乗り越えるほど損する可能性より得する可能性が大幅に高い、成功した時に得する額が失敗した時に損する額よりも大幅に大きいといった状況の時に(もしくはそう思い込んで)でリスクを取ろうとします。

一度損をしたら取り返したくなる

人は損をした時の心理的ダメージが大きいため、一たび損をすると今度は損を取り返すために無謀な賭けに出ようとすることがあります。この気持ちを抑えて冷静に撤退できるかどうかが投資家として最低限備えなければならない素養になります。

お金持ちが詐欺に引っかかるパターンも「絶対に儲かります」と言われ、その話を信じてお金を出したら、なんだかんだ理由を付けられて「来月にはお金が入ってくるので、もう一度出資してください、今やめたらお金が戻ってこなくなります」と言われてズルズルお金を出しつづけ、いつか何倍にもなって返ってくることを夢見ながら最後まで返ってこないお金を待ち続けるというのがよくあるパターンですが、これも損をしたくないというプロスペクト理論を利用した手法です。

また、経営学ではすでに投資したお金のことは忘れて将来のことを考えなければならないというサンクコスト(埋没費用)という考え方がありますが、これもこのプロスペクト理論が邪魔をして理屈ではわかっていてもなかなか忘れることはできません。

一人でやっているのであればまだ自己責任であきらめることもできるかもしれませんが、組織の中で投資に失敗して回収不能になった場合には、経営陣に説明しなければなりません。失敗したことが明らかになったとしても「投資額が中途半端だったからだ、成功させるためにもっと投資しないと」という話になり先ほどの詐欺師の話と同様に返ってこないお金を出し続けることになりかねません。

頭がいいと思っているほど危険な投資

リスクを取って投資した時の根拠が、時には「自分は頭がいいから、優秀だから」といった実際には根拠になっていないケースもあります。かつてタートルズと言う伝説トレーダー集団がいましたが、タートルズの教えを受けた人の中で医者や弁護士といった社会的なステータスが高い人の方がトレーダーの教えを守れなかったという話があります。

株式投資のような投資にしても、経営上の投資にしても、間違いを認められるかどうか、間違いとわかった時に損を受け入れて撤退できるかといったところが重要なポイントになります。