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奥さんの口座に給与振り込みは可能か?

顧問先から「奥様の口座に給料を振り込んで欲しいと言われたんですが、本人以外の口座に給料を振り込んでもいいんですか?」という問い合わせを受けました。振り込もうと思えば振り込めてしまうのですが、果たしていいんでしょうか?

他人の口座に振り込むのは労基法違反

結論としては、振り込んではいけません。本人名義以外の口座に給与振り込みを行うのは労基法24条に違反してしまいます。

第24条 第1項 
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

労働基準法‐Wikibooks

直接払いの原則

まず、直接労働者に支払わなければならないので、奥さんに支払うことはできないという点で違反します。しかしこの点に関しては「使者」に払うなら本人に直接じゃなくてもいいという例規があり、使者って何?という論点があります。

使者、使いの者ということですが、要は意思決定権が無く、そのまま従業員本人にお金が渡るような相手という事だと思います。想定されるのは、本人が病気やけがなどで身動きが取れず、代わりの人が受け取りにくる時の、代わりの人にあたるのが使者のイメージです。「奥さんは使者です!」と言い張られた時に明確に否定する根拠がありません。

通貨払いの原則

直接払いに違反していると片付けられなかったとしても、もう一つの壁があります。24条の「通貨で」の部分です。同じ例規に例外として口座振込が認められています。「通貨で」というのは現物支給じゃなくお金を渡してねという意味ですが、今時現金手渡しは珍しく、口座振込は「通貨で」渡してる?という論点がありました。

昭和63年の例規が作成された時点でもこの点は同様だったらしく、口座振込はOKという例外規定を設けています。そしてこの例外規定は、「本人名義の口座であること」と条件としています。

奥さん名義の口座はこの通貨払いの原則(の例外規定)にも引っかかっているので、そもそも直接払いじゃないのでアウトでもいいのですが、いやいや使者だし!とごねても、こちらでアウトになってしまいます。

給与支払担当者はうっかり奥様口座あてに振り込んでしまわないようご注意ください。