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2025年の崖は本当か

5年後に迫るITの崖

DXという言葉と同時に、2025年の崖という言葉もよく聞かれるようになりました。一種のホラーストーリーですが、2025年にIT人材の不足や大規模なサポートの終了が待ち受けているからそれまでにDX(デジタルトランスフォーメーション)を完了しないと大変なことに!(具体的には毎年約12兆円の経済損失が発生する)という話です。

その解決法として、今までのシステムを捨てて全く新しいシステムを入れましょう!という話です。この辺がIT業界の思惑を感じてしまいますが、なぜ今までのシステムを捨てなければならないのかというと、今までのシステムは後追いで追加開発を繰り返した結果つぎはぎだらけになってしまい「ブラックボックス化」してしまったからという事です。

システムがつぎはぎだらけでブラックボックス化

私が大学を卒業して新卒社員として社会に出た20年前、世の中はERPという大規模システムへの刷新が行われており、IT業界は活況を呈していました。その時のスローガンが「つぎはぎだらけでブラックボックス化してしまったシステムをERPに刷新しましょう!」というものでした。

まさに歴史は繰り返す…というかIT業界があの夢をもう一度と言わんばかりに世の中を煽っているような気がします。ERPの代名詞ともいえるSAP社のR/3のサポート終了が2025年で、R4HANAという全く新しいコンセプトのシステムへの移行を狙っているというのも「怪しい…」と思ってしまう要因です。

これは断言できますが、次世代システムもまたブラックボックス化します。そして数十年後同じスローガンの下システムの刷新が叫ばれることになるでしょう。

何故システムはブラックボックス化してしまうのか

システムはそもそもブラックボックスです。プロセスや計算式が明確でわかりやすかったらシステムにするまでもなく、Excel等で計算できてしまいます。プログラムというPCにしかわからない言葉で命令を与えてデータを処理してもらうので、プログラム言語を読み解ける人でなければどういう処理をしているのかはわからないのが普通です。

しかし、システムがつぎはぎだらけになってブラックボックス化してしまうのは、そもそものプログラム言語が一般の人に理解できないというだけではなく、ユーザーが「必要な情報が何なのかよくわかってない」ことに起因します。

そして、必要な情報が何なのかよくわからない理由として「人は情報を得れば未来を見通せると誤解している」というのがあります。情報を集め詳細に分析すると将来何が起こるかを予言できると思い込んでいるのです。

「そんなバカな」と思うでしょうが、将来見通しのシミュレーションが独り歩きし、その通りになる前提で話が進められるというのはよくあります。本当は「一旦この前提でやってみて、間違っていたら行動を修正しよう」というのが正しいスタンスのはずですが、最初の前提が顧みられることは無く、途中で間違いだったことに気が付かずに(もしくは間違いを認めることができずに)そのまま突き進んでしまい失敗してしまうことが日常的に起こります。

典型的な話が、「国の借金問題」です。まもなく財政破綻すると言われたのは何十年前でしょうか。それからも政府の負債は増え続け対GDP比で〇%!ギリシャよりひどい!と財政健全化という錦の御旗の下、デフレ環境下でインフレ対策を行うという誤った政策をずっと続けていますが、「間違っているようだから行動を修正しよう」とはなりません。日本の中枢を担っていた頭脳が「間違っていた」なんてことは許されないのです。国のレベルでもこれなので企業のレベルでも「『間違っていました』じゃ済まないから、絶対に間違ったとはいえない」状況で突き進んでしまうことは普通にあり得る話です。

そうして最終的に失敗が確定した時に「見通しを誤ったのは情報が足りなかったからだ」「もっと細かい情報が無ければ判断できない」と追加で情報を集める仕組みをシステムに組み込もうとします。「システムが悪い」という理由付けは身内を誰も責めずに済むので好都合です。システムベンダーも要望を真摯に受け止め「付加価値向上」のために頑張ってシステムを改変して行きます。その結果システムつぎはぎになりブラックボックス化していきますが、問題の真因は「間違いをできるだけ早い段階で認め行動を修正すること」であって情報が足りないためではないため、問題が解決されずに「この情報が足りなかった」「あの情報をもっと細分化せねば」というループが無限に続くことになります。

やがて、情報の入力負荷に現場が耐えられなくなってくると「情報が不正確で使えない」という事になり、徐々にシステムを利用しなくなってきて、いつの間にかExcelで簡単にまとめた情報を使っていたということもあり得ます。しかもそれで何とかなってしまうのもよくある話で、かえってみんなが分かりやすい情報だから単純だけどシステムから出力される情報より使い勝手がいいなんてこともあります。

システムから「預言書」が出力されるという幻想からの脱却

占いもやるのでよくわかりますが、人の「未来を見通したい」という欲求は非常に大きいものです。生存欲求に直結しているからだと思います。本当に未来を見通せれば不慮の死を免れることも可能です。正月になれば神社仏閣に人が押し寄せ、優れた経営者が験を担いだりパワーストーンのブレスレッドを付けていたりするのもよく見かけます。

そのこと自体を否定するつもりは全くありません。私も占いが好きなので気持ちは同じです。ただ、システムから出てくる情報はあくまで過去の情報であり、経営意思決定に役立てるためには、「出力されたレポートにこう意思決定しろと書かれている→その通りに意思決定する」ではなく、「意志決定する→出力されたレポートを見る→想定との違いを考える→次の意思決定をする」でなければなりません。

その際に重要な情報はシステムの中よりもむしろ「どういった理由でその意思決定をしたのか、その意思決定の結果どういうデータになっていると予想されるのか」というシステムから出てくるデータよりも前段階の情報の方になります。