個人事業主が法人成りしたケースで悩む事業主貸・事業主借
個人事業主は個人と事業の間に明確な境目が無く、同じ所得税の範疇で申告するため、お金のやり取りもあいまいです。個人事業主に給料が支払われることはありませんし、個人の財布から経費を支払ったり、事業の儲けから生活費を支払ったりします。
その時に利用する勘定科目が事業主貸・事業主借という勘定科目です。事業の収入から個人の生活費等を支払う時は事業主貸、個人の財布から事業のお金を払う時は事業主借を使います。どのみち申告の時には相殺されて元入金と合算されますので、事業主貸か事業主借かどちらか一方だけを使って、事業主借は事業主貸のマイナスで表現するといったような使い方をしても問題ありません。
この科目は個人事業で一人で小規模にやっているケースなどでは頻繁に利用します。一応財布はきちんと分けているつもりでも、ちょっとした打合せで出す飲み物とか、得意先に挨拶に行くときの菓子折り代とかは個人の財布からとりあえず立て替えてしまうことはよくあります。また、プライベートでも事業でも利用しているクレジットカード等では、プライベート利用の分は全部事業主貸になります。
そんな個人が法人化してしまったら…?
事業内容はそこまで大きく変わっていないものの、儲けが大きくなり節税目的で法人化した方が有利になった場合に、個人事業主の感覚で事業を行っていると「今まで事業主貸・事業主借で処理していたものはどうすれば…?」と思うかもしれません。
まず、法人は個人とは別人格なので、個人には給料が支払われます。個人の生活費はこの給料から支払うのが原則です。給料が支出に足りないのであれば給料を上げることを検討した方がいいでしょう。また、個人の財布から立て替えた場合は、「役員借入金」勘定を利用して個人から法人が借りたことになります。
逆に給料から個人の支払がどうしても足りず、法人からお金を借りなければどうにもならないというのであれば「役員貸付金」勘定を利用して法人から個人が借りることができるようになります。
役員貸付金・役員借入金はあまり使わない方がいい
役員貸付金・役員借入金が事業主貸・事業主借の役割を果たすことはわかりましたが、これらの科目を多用していると法人が別人格としての実態が無いと公言しているようなものです。これらの科目を当たり前のように使い、多額の貸付金・借入金が貸借対照表に存在していると、金融機関から借り入れが必要になった場合に印象が悪くなる可能性があります。
これらの科目と事業主貸借との大きな違いは、事業主貸借のように毎年相殺されて資本の部に吸収されるようなことはなく、ちゃんと貸付金や借入金として残り続けてしまうという点です。
なにより、「法人から借りればいいや、貸せばいいや」と考えていると事業と個人の境目が曖昧になっていき、自身のお金の管理がずさんになっていってしまい、経営上もよくありません。
どうしても利用しなければならない時だけ利用し、速やかに返済してできるだけ法人に役員貸付金・役員借入金は残らないようにするべきです。
役員借入金を消滅させるデットエクイティスワップ
法人が起業当時に多額の資金を必要としている場合、経営者個人のお金を投資して何とか経営を維持するケースはよくあります。その時の役員借入金はかなりの金額になってしまいます。また、返済しても経費にならないため返済されずに役員報酬として支払うことになりがちでずっと残っていたりすることがあります。
こういった役員借入金は実態としては資本です。いつ返済してもよく、利息も取られていません(支払利息を経費計上したくて利息を取っているケースはあると思います)。そういった借入金(デット)を資本(エクイティ)に交換(スワップ)してしまう手段がデットエクイティスワップです。
デットエクイティスワップの手続きや、メリットデメリットについて知りたい方、法人成りしたばかりで税理士の力を借りたい方はezakitakakazu.office@gmail.comにご連絡ください。