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パブリックセクターという特殊な市場

パブリックセクターとは

パブリックセクターという言葉は私にとっては非常になじみがありますが、普通の人はあまり聞いたことが無いようです。

パブリックセクターとは、一般企業に対して、官庁、独立行政法人、国立大学法人、地方自治体公益法人、学校法人などの公的機関のこと。

マネー辞典

私が前職で仕事をしていた相手は主に地方自治体や地方独立行政法人でしたが、このような民間と異なる公的機関と仕事をするうえで、民間とは異なるルールがあります。ルールが分かってしまえばそんなに難しいものではありませんが、わからないとどうやって一緒に仕事すればいいのかわからず相手のニーズを満たすサービス提供ができたとしても市場に参入することができません。

すべては仕様書に従う

パブリックセクターと仕事をする上で重要なのは、「仕様書」と言われる何をやるのかという事が取り決められている書類です。プレゼンで提案を行う際に自由に提案してはいけません。民間では、まず営業に行きそこですぐに商談が進む場合もあると思いますが、パブリックセクターではごく小規模の場合でもなければそのようなケースはありません。

仕様書に取り決められた内容の業務を漏れなく遂行できる場合にのみ、競争に参加可能で、基本的には公正を保つために複数の業者が競争することになります。単純な価格競争になる入札の場合もあれば、プロポーザルと言われる提案内容を加味した入札の場合もあります。

プロポーザルの際も、独自のアイデアで自由な構成の提案はできません。特定の箇所について「自由なアイデアを提案してください」と仕様書に指示があった場合のみ自由な提案が可能です。完全に自由に提案すると比較して採点ができないため、民間ではあり得る完全に自由な提案というのはパブリックセクターではありえません。あくまで仕様書の項目に沿って規定の業務をどのように効率よく理想の形で実現できるのかという点をアピールする必要があります。この時、特定の項目でどんなに素晴らしい提案ができたとしても仕様書の項目が一つでも実現できないと失格になるのが一般的です。

逆にいえば、どうすれば勝負の土俵に立てるかは明確に指示があり、その指示に従えばたとえ全く面識がない新参の業者でもチャンスがあります。大抵は実績を要求されますが、なんらかの実績があり、新たにパブリックセクターに参入しようと考える業者にとっては民間で飛び込み営業をするのに比べてはるかにハードルが低いと思います。

決して貸し倒れない顧客

パブリックセクターの収入は事前にある程度決まっているため、「予算」という使えるお金の枠も事前に決まっています。この予算は民間だと「売上が予想外に落ちて予算を達成できなかった」といったように収入の目標のような意味合いで使われますが、パブリックセクターにおける予算はほぼ確実に使えるお金です。「予算が取れなかった」という事はありますが、一度取れた予算が使えなくなるという事はほとんどありません。

その予算の範囲内で発注がなされるため、支払いが滞ったり、貸し倒れたりといったことはありません。与信管理は基本的に不要で、その意味でのリスクが無いというてんが民間と異なります。

どこにお金が流れているのか事前に把握できる

民間ではニーズは推測するしかありませんが、パブリックセクターでは国からどういった分野にお金が流れていっているのかは政策や公開されている予算の情報によってある程度推測可能です。また、入札情報サイトなどで発注情報が常時公開されているため、どういった仕事が今後発生するのかといったことは民間に比べてはるかに容易に推定できます。

全ては「税金」という他人のお金を使うため

これら民間と異なる特徴があるのは、税金が他人から提供されたお金であるがためです。民間では自らの製品やサービスの対価として収入を得ているため、そのお金をどう使おうが他人に文句を言われる筋合いはありませんが、パブリックセクターでは他人が「自分が払った税金を無駄に使うな!」と文句を言う権利があります。このため、公明正大、どういったことに使うのか、特定の企業や個人に不当にお金が言っていないのかといったことを逐一公開してなんら不当な使い方はしていませんと説明する必要があります。

この結果、何をやってもらうかは仕様書で明らかにしなければいけませんし、仕様書を逸脱することはできません。癒着を防ぐため適正な手続きを踏めば誰でも競争に参加できるようにしておく必要があります。税金は製品が売れないとかサービスが売れないとかで入ってこなくなるのとは異なり、毎期ある程度計算通り入ってくるので貸し倒れることもありません。しかし、無駄に使うわけにはいかないため、報酬は民間に比べて低くなります。

現実には新規参入は色々と難しい部分もあると思いますが、「パブリックセクターって参入が難しそう…」というのは思い込みの可能性もあります。