平成30年(行コ)第59号 大阪高等裁判所平成30年11月2日判決
個人事業主が、他社に外注したとします。その場合、当然外注費となり経費計上可能です。では、その他社が自分が社長の会社で、外注した作業を自分でやったのだとしたら?
「誰がやろうが外注したことには変わりないだろう。経費計上して何が悪い!」経費計上を認められなかった個人事業主が裁判を起こしました。その判決が平成30年(行コ)第59号 大阪高等裁判所平成30年11月2日判決です。
結論から言うと、判決は以下の通りです。
裁判結果:棄却
経費計上は認められませんでした。
この個人事業主は、外注した際にきちんと契約を行い、普通に他社に発注するのと同様の形で、適正な価格の外注を行いました。そこで、ちゃんと正当な手続きを踏んで外注したのだから、やったのが自分だろうが他人だろうが関係ないだろうと主張しました。
裁判では、「いやいや、外注する必要ありませんでしたよね?自分でできたんだから」というところを争点にしました。これを、「事業所得の必要経費性」といいます。元々経費計上を否認した国税の根拠は「同族会社の行為計算否認」という、「同族会社は経済合理性に欠く行動を取って不当に課税逃れをできてしまうが、それはダメですよ」というものに該当するという主張でした。
自分の会社に発注すること自体は否定されていない
判決では、「同族会社の行為計算否認ではないでしょう。ちゃんとした手続きを踏み、適正価格で外注しているし、仮に個人事業主自身ではない従業員が作業を行ったのであれば適法では」と国税の根拠の方も否定しています。
このことから、個人事業主である自分が、自分の会社に外注すること自体は問題ないことが分かります。このケースは「外注された仕事を自分でやっている」のが問題なわけです。この個人事業主が仮に自分でできる仕事であったとしても「対価を払ってでも他人にやってもらって自分の時間を節約したい」だとか、「もっとうまくできる誰かにやってもらいたい」といった理由で自社の従業員にやってもらうために通常の発注と同じ条件で発注したのだとしたらそれは問題ありません。自分でやったことで、そういう対価を払うメリットが全くなくなったため、事業所得の必要経費性が否定されてしまいました。
なぜ、自分の会社に発注したのか
個人事業主が自分の会社に発注したとしても、自分の会社の収入になり課税されます。個人事業主の給料として法人の経費とし、個人に還元してもやはり個人の収入になり、そこで課税されます。自分に入ってきたお金をどこに持って行ったとしてもどこかで収入となり課税されるのに、どうして外注したのでしょうか。
まず、もっとも単純な個人事業主の収入として課税されるケースでは事業所得としての課税になります。この個人事業主の課税所得がいくらかはわかりませんが、所得税は累進課税制度によって所得が多いほど税率が上がります。一方で法人税は収益が増加しても概ね一定で、恐らくこの個人事業主の所得税率よりは低かったのだと思います。
さらに、その法人から給料として個人に支払うと、今度はまた個人の所得税になりますが、給与所得は給与所得控除という経費として発生していないにもかかわらず経費計上していい一定額の控除が認められています。
こうして、一旦法人を通し、個人の給与として支払うことで単純に個人事業主の事業所得とするよりも支払う税金は少なくなります。しかし、ただ税金を安くしたいからというだけでは認められることはありません。