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ランチェスター戦略-強者とは弱者とは

ランチェスター戦略は弱者のための戦略ではない

ランチェスター戦略については様々な本が出ていますが、基本的には弱者が強者に勝つための戦略と言われています。しかし実際には、強者が弱者に勝つ戦略についても説明がされており、弱者が強者に勝つ戦略というよりは現在の自分のポジショニング(強者か弱者か)によってどのように戦うべきかという戦略です。

しかし、通常はプレイヤーのほとんどが弱者に該当してしまうため結果的に弱者の戦略と言われています。

強者とは弱者とは

強者と弱者とはどういった人のことを言うのでしょうか。業界1位なら強者でしょうか。業界3位でシェア30%ならどうでしょうか。

ランチェスター戦略では、強者をシェア26.1%以上の業界1位の企業としています。それ以外はすべて弱者です。その強者もシェア41.7%、73.9%というラインを超えることによって段階的により盤石な優位性を確保できるとのことです。随分半端な数字ですが、クープマンモデルという軍事シミュレーションを基に解析した結果です。

つまり、業界2位や3位という時点で、どんなに強大な力を持っていたとしても弱者です。業界1位であったとしてもシェアが低すぎたら弱者です。2位に容易に逆転されるシェアしかないとみなされます。

というわけで、世の中の企業のほとんどが弱者になることから弱者の戦略と言われます。しかし、現実には業界2位でシェア30%の大企業が弱者?業界1位のシェア20%の大企業が弱者?という感覚だと思いますので弱者の戦略というよりは大半の企業が採用した方がいい戦略という事になります。

大半の企業がとるべき戦略

では、どのような戦略を取ればいいのでしょうか。ざっくりと言えば「部分的に優位になっている状況を作る」という事です。

戦略の大枠:差別化戦略

大きくは、差別化戦略を取るべきという事です。差別化戦略は経営学ではコストリーダーシップ戦略という低価格競争に引きずり込む戦略との対比でよく出てきます。とにかく「強者の真似をするな!」というわけです。言うのは簡単ですが、やるのは非常に難しいです。「強者が成功しているのはこういうやり方をしているからで、それ以外のやり方をしたら失敗する。なぜなら強者はやっていないから」という思考に陥りがちだからです。

しかし、強者の真似では、すでに信用も実績も先行している強者を出し抜くことは決してできません。そこで、真似したいのをグッとこらえて強者がやっていないことをやりながら当たりを引く必要があります。

5大戦術その① 局地戦

差別化を行う上で、いくつかポイントがあります。まずその最初のポイントは「局地戦」です。これは、エリアを限定し強者が全力を出せない所で戦うという事です。個人でやっている飲食店がマクドナルドが進出してきても潰されないのは、外食産業はその特性上、強制的に局地戦になってしまうからです。

マクドナルドがすべての資本を例えば私が住む春日市に投入して春日市をマクドナルドの資本一色にしようとしたら春日市の飲食店は一掃されてしまうかもしれません。しかし、マクドナルドがそんなことをするメリットは全くありません。各地域でそれぞれのマクドナルドがそれぞれの地域の飲食店と闘う必要があります。

飲食店は文字通り地理的な局地戦が各地で展開されますが、我々のような仕事も、税理士であれば医療特化型、相続税特化型といった税理士事務所、会計士でも医療法人、社会福祉法人、JA限定の監査法人等々の分野を限定するという概念的な局地戦も考えられます。むしろ概念の方が一般的です。

5大戦術その② 一騎討ち

ライバルが1人の所を狙うのが理想的ということです。顧客が複数の業者と取引を行っている所ではなく、1社が独占的に顧客と取引を行っている所の方を狙うべきだという事になります。これは、何となく複数業者の中に紛れ込む方が弱者っぽいですが、実際には複数業者がいるという事は顧客に対して常に競争が起こっており、その中に入っても後発のデメリットが大きいですが、相手が1社ならその1社に勝つだけで総取りが叶うという状況で優位を作りやすいという事のようです。

5大戦術その③ 接近戦

顧客と出来るだけ直接取引をするということで、大企業になればなるほどブランドイメージによる広告宣伝等により間接的に販売していくことができるようになりますが、そういったやり方はある程度の規模が無ければ投資を回収することができません。そこで、規模が小さい弱者は直接顧客に営業しに行き、交渉して販売することで広告宣伝の投資コストはかかりませんし、販売した利益は自分にすべて入ってくるという利益率の向上も見込めます。

5大戦術その④ 一点突破(集中投資)

局地戦・一騎討ちで戦うところを限定したらそこにリソースを全力で投入せよという事です。これによって、優位な状況を部分的に作り出し「勝てて当たり前」の状況を一時的に作り出します。これもリスク分散という名目の下、余力を残したくなりますが、弱者が勝つにはここでリスクを負う必要があるという事です。

5大戦術その⑤ 奇襲攻撃

最後の戦術は、相手の裏をかく奇襲攻撃を行うという事です。簡単に言いますが、奇襲というのはそんな簡単な話ではありません。ビジネスにおける奇襲とは何かという話としては、「ストーリーとしての競争戦略」という本が参考になります。私が考えるビジネスにおける奇襲とは「今まで常識だとされていたことに反して優位性を生み出す戦い方」という事になります。

例えばマブチモーターは「モーターは顧客のニーズに合わせたオーダーメイド」というのが常識だった時代に「標準化されたモーターを販売し、顧客にモーターに合わせた設計を行ってもらう」という事で急速に成長しました。中古車買取専門のガリバーは「消費者に中古車を売らない」という常識を覆したビジネスで成長しました。こういった、「今までの常識に反しているが理に適っている」という戦い方が奇襲攻撃という事だと思います。

まとめると部分的に勝っている状況を作る

この話をまとめると、自分の手持ちの戦力や戦術を駆使して、強者が戦力を小出しにしかできない状況を生み出し、その小出しにしている戦力に対して全力でこちらの戦力をぶつけることで「勝って当たり前」の状況を生み出すという事になります。

簡単な話ではないですが、どうしても勝ちたかったらこうするしかないという事で、ランチェスター戦略というのは「学べば必勝!」などというお手軽なものではなく、あくまでこの原則を踏まえた上で全力で考える必要がありますし、大きなリスクを負う必要があります。それでも、到底勝てるわけがない相手に勝つとなればその程度のことは当たり前なのかもしれません。