何を以て失敗・成功とするか
独立したらきっと税理士としての仕事がメインになるだろうと思い、辞める直前には税理士が独立開業した際の本をよく読んでいました。一人で税理士事務所を運営していて成功している井ノ上陽一さんという方が監修した独立した税理士のその後をまとめた本を読んでいて、多くの人が書いていたのが「半年ぐらいは仕事が無く焦っていたが、半年ぐらいから仕事が入り始めた」という話です。私は辞めてからちょうど半年ぐらいになりましたが、監査繁忙期とちょうど重なっているせいもあり確かに忙しくなっています。
ある程度辞めた事実が知れ渡り、それなりに人間関係ができていれば仕事の打診は結構来るものだなというのが実感です。もちろん全てが自分の望んでいるような仕事(業務内容や報酬など)ではありませんし、全て受けられるわけではありませんが、ある程度自分の望んだ形で仕事をさせていただいています。
では、私は成功しそうなのかというと、「どうなったら成功なの?」という点が人によって全く異なるのではないかと思います。監査法人勤務時代の年収を超えるというのは一つの目安かもしれませんが、別に超えなくとも普通に生活ができて、老後も貧困に苦しむことなく人生を全うできれば成功としてもいいのではないかと思います。
しかし、人によっては「リスクを負って独立したんだから、辞める前の年収の3倍は稼げないと!」などと思っている人いるでしょうし、「毎日自由に好きな事をできる生活なら最低限の収入で構わない」と思っている人もいるでしょう。
様々な成功の形はあると思いますが、各士業がどのような形で収入を増やしていくのかなんとなく見えてきたので整理したいと思います。
労働集約型産業という共通点
まずあらゆる士業の共通点として、労働集約型という点があります。つまり、工数×単価で報酬が決まる仕事のため、年収はおのずと単価をいかに上げるかにかかってきます。例えば、1日5万円で働くことができると200日で1,000万円になります。240日で1,200万円。1日10万円なら倍です。2.5万円なら半分です。この1日当たり単価、1時間当たり単価を意識して働かないと受けるべきではない仕事を受けてしまいかねません。1件60万円という金額の仕事に3ヵ月丸々かけてお客さんに喜んでもらった!と喜んでいたら、年間では240万円しか稼げずジリ貧になってしまうかもしれません。どうにも仕事が無ければ経験を積むという意味でそういう仕事を受ける選択肢もあると思いますが、仕事を受けるか受けないかを考える時にこの単価の感覚は重要だと思います。
公認会計士としての独立は大手が手を出せない小規模監査業務を増やしていく
公認会計士が行う監査業務は、ある程度チームとしての行動が不可欠ですが、辞めてみてわかったのは大手が採算が合わず、しかし監査が義務付けられている監査対象が拡大を続けており、そういった需要はかなり大きいということです。
「そんなことに会計士の監査が義務付けられてるのか」と驚くことも時々あり、上場企業や大会社ではなく様々なところで公認会計士の監査が要求されていることに辞めて初めて気づきました。
一人で公認会計士事務所を開設しているとチームになることが必要な監査業務は無理なのではないかと思っていましたが、複数の事務所で協力してチームを組んで監査を行うというやり方が中小事務所では一般的な監査のスタイルです。
MMORPGで、必要に応じてクエストの募集が行われ、希望者が集まってパーティを組んでクエストを達成し、解散するというのに似ていると思います。監査は毎年あるので、一度契約が締結できれば毎年の業務として積みあがっていくのは税務と同じです。
税理士としての独立は顧問税理士としての契約を増やしていく
一般的な独立のイメージはこちらで、こちらは単独の事務所で業務を行うのが一般的です。そのため他事務所との調整が不要な点が監査業務よりもやりやすい半面、業務中に相談できる人がいない、お金が直接絡むので訴訟リスクが高いなどデメリットもあります。
士業の人はあまり営業力が無く、顧問税理士は基本紹介で増えていくことが多いようです。私の顧問先も紹介していただいたり、知り合いの診断士からの依頼だったりと紹介ベースです。積極的に営業しようとスタートアップカフェの相談員もやってみたりしていますが、スタートアップの人たちは顧問税理士と契約できるほどの収益が上がって無い人も多く、かといって顧問税理士との契約ができるほどの会社はすでに顧問税理士がいることが多いため、たまに発生する「誰かいない?」という話に自分が引っかかるというのが一番現実的なのかもしれません。
中小企業診断士が独立して上手くいくのが難しい理由
上記の2つの士業が比較的上手くいきやすいのに対して、中小企業診断士は2つの理由から独立開業の難易度が跳ね上がります。
理由①:独占業務が無い
士業にのみ許される独占業務は、強力な参入障壁になります。ビジネスの重要なポイントの一つとして、参入障壁を築き上げ徐々に崩されていく障壁をいかに長期間にわたって維持できるかというのがあります。ライバルが少なければ重要に対して供給が常に少ない状態になり、売り手市場で売り手有利にビジネスを展開できるようになります。この独占業務という制度は先人が作ったすごい仕組みだと感心します。
中小企業診断士に独占業務が無いということは、この参入障壁が無いということになります。中小企業診断士になることで国や協会から仕事を斡旋してもらえるという点や、認定支援機関のようなものになりやすいといった多少のメリットがありますが、独占業務の参入障壁が無いというのは失敗してしまう大きな要因になっていると思います。
理由②:プロジェクト型の仕事が多い
プロジェクト型の仕事は単価が高くなりやすい反面、毎年の仕事にはならないため収入が安定しません。もちろん診断士として顧問業務を行っている人も多いのかもしれませんが、コンサルティングというのは案件が発生して解決したら一旦終了というのが一般的なのではないかと思います。また、プロジェクト型の仕事は「次のフェーズは…」とより大規模で複雑なステップにつなげていくことで業務を拡大していくのがセオリーですが、それには高度な企画力・営業力が必要で、フェーズが進めば進むほどチームでなければ対応できなくなり、個人では難しくなってきます。かといって、各診断士事務所がチームを組んで仕事をするというのは監査のように業務のやり方が確立していないため、主催の診断士の強力なリーダーシップと従う診断士の高いコミュニケーション能力と責任感が必要になり難易度は高いと思います。
会社員に戻るという選択肢
上手くいかなかったとしても、独立して苦労したという経験は貴重だと思います。また、会社員に二度と戻れないというわけでは無いので、会社員に戻るというのも一つの有力な選択肢なのではないかと思います。診断士も単価が非常に安いですが実質会社員になるような仕事の募集が協会から月に2,3件ぐらいのペースで行われており、贅沢を言わなければ生活していくことは可能です。その生活は時間的な自由も高い収入も望めませんが、路頭に迷って困窮する血追う最悪な事態は避けられるという点でセーフティネットになっていると思います。