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青色申告専従者給与の未払金処理はできない

青色申告専従者給与という制度について

青色申告専従者というのは、個人事業主で青色申告を行っている場合に、事業を手伝っている奥さんなどのことを言います。そういった一緒に暮らしている親族が手伝っている場合に給料を払うと青色申告専従者給与として経費にすることができます。

奥さんにお金を渡すとしても家族全体ではお金は出ていっていないため、経費にできるというのは家族全体では払う税金が減るだけというお得な制度です。このように、若干ズルいところがあるため、奥さんにこういった仕事をしてもらうので月幾らを上限に支払いますということを税務署に届出る必要があります。

奥さんに手伝ってもらうとしても普通の従業員のように9時5時で週5日勤務というのは珍しいと思います。専業主婦が家事の合間にパートのように手伝う場合でも給料として払ってもいいのかというと、以下のような条件を満たした場合に認められます。

イ 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。

ロ その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。

ハ その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。

国税庁 タックスアンサーNo.2075

生計を一にする配偶者その他の親族というのは、同居していたり、個人事業主の収入で生活している親族です。15歳以上で、少なくともフルタイムの半分超は働いている(少なくとも働くことが物理的に可能な)人のことを言います。

なので、パートに出ていてどう考えてもフルタイムの半分も事業のために時間を割けるわけがないという人は認められません。また15歳以上の子供でも学生は学業が本分なので認められません。

経費にできるもう一つの要件

この部分だけを見ると、「へー、経費にできるのはいいけど奥さんにそんなにお金を渡すほど儲かってないから儲かりだしたら払うことにして、とりあえず経費にしたいな」と思う方もいるかもしれません。

そういう人は以下のように会計処理を行うと思います。

青色申告専従者給与 ×××円/未払給与 ×××円

そうして、お金が入ってきたときに未払給与を相殺してお金を払おうと考えるのではないかと思います。しかし、さすがにこれはできません。

第五十七条 青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。

所得税法第五十七条第一項

例えば届出上、月8万円と決めて1月~6月までは払えずに未払給与としていて、7月~12月まで毎月16万円支払い、12月末までに未払給与が残らないようにするのであれば問題ありません。しかし、「支払」をしないといけないため未払給与として翌年に持ち越すことはできません。なので、わざわざ未払給与という勘定科目を使う必要はなく、支払った金額だけ専従者給与として経費計上した方がシンプルです。そっちの方が実際の所得税法で定められたルールにも忠実です。

実際にこの未払計上ができてしまうと、奥さんにいつまでも給料を支払わず延々と未払金として貯め続け、1円も自分の懐から動いていないのに経費計上だけをし続けるということができてしまいます。

ただし、例外的に「相当の理由」がある場合には未払も認められるため、今回のコロナショックのような状況で、資金繰りが逼迫した結果一時的に支払いが滞った場合のような異常事態の時には認められる可能性があります。しかし基本的には認められないと考えておいた方が無難でしょう。

事業外の収入からの支払でもOK

もう一つの話として、「事業で儲かっていないから、事業の収入から支払えない。とりあえず個人の財布から給料を支払えば、支払ったことになるよね」という話ですが、これは認められます。

請求人の場合、上記(ロ)のDの(A)のとおり、本件給料が事業主借勘定に振り替えられ事業用とされた現金から支払われているところ、所得税法第57条は、事業収入以外から事業に流入した資金により青色事業専従者給与が支払われた場合に、当該支払を必要経費に算入することを認めない旨を規定したものと解するのは相当ではない。

国税不服審判所(平成27年4月13日裁決) (ハ)Aより抜粋

この判決ですが、赤字の個人事業主が個人の財布から(医者なので医者としての給料から)奥さんに専従者給与を支払ったことを国税庁と争った時の判決です。この部分については、個人の財布からだろうが支払ったことには変わりないので問題ないとして個人事業主の主張が通っています。

なので、事業の収入からは払えなかったとしても未払金計上などとせずに、なんとかして自分の貯蓄からでも奥さんに支払っておけば経費として計上することは可能ということになります。

青色申告専従者給与を選択すると配偶者控除は使えない

気を付けなければならないのは、青色申告専従者給与の制度を利用する場合には配偶者控除を使うことができなくなるという点です。年間の給与の支払額が38万円を下回る場合は配偶者控除を使った方が得なので、青色申告専従者給与の制度を利用しないで、奥さんにタダ働きをしてもらった方が得ということになります。その場合は、給与としてではなくお礼としてお金をあげるということになると思います。贈与税の基礎控除は110万円なので、38万円以下であれば問題なく渡せると思います。