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IT導入を阻む壁

コロナショックによる在宅勤務の推進

コロナをきっかけにテレワークという言葉が目立つようになりました。離れたところで働くということで、在宅勤務とは厳密には違いますが、我々のような機密情報を扱う仕事がメインの場合、他人が簡単に情報を盗取できないような環境と言うと実質的には在宅勤務と同義になります。

テレワークをせざるを得ない状況に追い込まれたことに乗じて、テレワークができる環境を整え、コロナの影響がどれだけ続こうとも耐えられる状況を整備しようという考え方と、とにかくコロナが落ち着くまでやり過ごそうという考え方があります。

人間は自分の意志ではない環境の変化を嫌います。今回も強制的にテレワークへの変更を迫られており、とにかく現状を乗り切って元の状態に戻りたいというのが一般的な考え方だと思います。これはそのまま新システム導入の際にも同じ状況がうまれ、新システム導入を推進しているプロジェクトメンバー以外は現状上手く回っているのになぜわざわざかき回すようなことをするのかという現場の方の方が多いと思います。

テレワークは業務の流れにかなり大きな影響を与えます。特に事務所にしかない情報を自宅にどのように持ってくるのか、持ってこれないのであればどうやって業務を実施するのかを考えなければなりません。しかもある程度環境整備も必要になってきて、投資コストもかかります。今回は状況が状況なのでゆっくり業務フローを分析して、あるべき業務フローを作成しといった通常の現状分析をやっている暇もなく、見切り発車でテレワークをやってみて、課題を明らかにし課題をクリアするということが必要になります。

変化を阻む様々な理由

今回のテレワークをしなければならないというプレッシャーは変化するという点では追い風になりますが、通常は特に問題なく業務が行われているところに新たなことをやろうとするといろいろできない理由が現れます。

理由①:前もやったがうまくいかなかった

新しいことをやる時に、似たようなものは昔からあり何度もチャレンジしたが上手くいかなかったという話になることがあります。新しい技術というのは大抵の場合昔からある技術の発展形で、ある程度昔からある技術をベースにしています。そのため、このようにチャレンジした過去の話が思い起こされ上手くいかなかった場合に過去の栄光の逆で過去のトラウマがチャレンジを阻むことがあります。

これについては、今回も上手くいかない可能性は当然あります。上手くいかないことの方が多いかもしれません。しかし結局、根付くか根付かないかはやってみないことにはわかりません。過去根付いたものと根付かなかったものがあったはずで、根付かなかったものばかりが思い起こされてしまうのは、根付いたものは今ではあって当然のような感覚になっているからです。

例えば、LINEは数年前には今ほど利用されてはおらず、LINEに似たようなメッセンジャーと言われていたツールがあったり、メール以外のコミュニケーションツールはそれまでにも生まれては消えを繰り返していたと思います。

メールもFAXも存在しなかった頃があったはずですが、今ではない世界が想像できないほど根付いています。これも、LINEも当初は「あー、そういう技術は昔からあったけど今ではメールがあるから廃れたんだよね」と当初言われていたかもしれません。

このようにうまく言ったケースというのは、現時点からみると昔から当たり前のようにあったと錯覚してしまい、根付かなかった失敗ケースだけが新しいものを取り入れようとするときに思い起こされ、何度もやったけど失敗したから今回も失敗すると思い込んでしまうのだと思います。

理由②:技術・ツールが物珍しいだけなのではないか、本当は不要では

新たな技術やツールが流行りだすと、それにつられて必要もないのに導入しようとして失敗するということはよくあります。これも根付かなくて失敗する一つの要因かもしれません。これについては、2つのアプローチの仕方があると思います。

一つ目のアプローチはフォロワー戦略で、確実に効果が認められ皆が当たり前のように使うことを確認してから導入するというアプローチです。この方法では失敗するリスクは少なく、無駄な投資を行うことは無いでしょうが、先行者利益を得ることは無く、ローリスクローリターンなアプローチです。

二つ目のアプローチはアーリーアダプター戦略で先行してリスクを負いつつ導入し、上手くいったら後続の導入希望者にコンサルティングを行ったり、先行者利益も得ることができ先駆者になれるハイリスクハイリターンなアプローチです。

どちらにも一長一短あります。個人的には失敗したら取り返しがつかない投資はやめるべきだと思いますが、少額で挑戦できるのであればできるだけ早いタイミングでどういうものなのかを知る機会を以て研究した方がいいと思います。失敗からも学べることは多く、頭の中で考えたことがやってみると意外と違っていたということはよくあります。

理由③:新システム導入により状況が悪化することが容易に想像できる

これも頭で考えるとそうなるという話ですが、そのシステムを導入したことによる弊害について強調され、効果はないどころかむしろマイナスになる。だから現状を維持しよう、新しいことをやるのはやめようという話です。

この話も理屈で考えると確かにそうなる気がしますし、実際にやってみたらそうなる可能性もあります。しかし、やってみないとわからない、やって上手くいかなかったら辞めようという風にチャレンジしないと、宝くじを買わないと宝くじが当たらないのと同じで決して改善の機会を得ることができなくなってしまいます。むしろ、その悪化が起こらないように気を付けつつ導入してみるというのが必要なのではないかと思います。

やってみないとわからないという話で行くと、私が独立した時も「仕事がもらえるあてが無いじゃないか、仕事が入ってこなかったからどうするつもり?」という悩みは当然あり、とにかく仕事のあてがどうなっているのかというのを独立前も独立直後も事あるごとに聞かれました。私も不安でした。これは「独立したらむしろマイナスになる。会社を辞めない方がいい」という話です。しかし実際に独立してみたら、普通に様々なところから仕事の話をいただきます。いまは単に期待値で話が来ていて、今後私の仕事ぶりから仕事が来なくなる可能性はありますが、少なくとも「仕事がもらえるあてもなく辞めたら仕事が入ってこない」という仮定は崩れています。

やってダメならやめられる環境が整ってきている

かつて、私が大学を卒業してシステムコンサルタントをやっていた頃、システム導入というのは失敗すると取り返しがつかない膨大な工数と投資額を賭けた一大プロジェクトであることが一般的でした。ところが今は、完成されたシステムをノンカスタマイズで導入して、サブスクリプション契約なので上手く入らなかったら早くやめればやめるほど被害も少なくなるというのが主流になりつつあります。

また、kintoneのような小規模のアプリ開発プラットフォームでちょこちょことシステムを作成できるようなトライアンドエラーを繰り返しやすい環境が整ってきています。昔は、上記のようなやらない理由を「もし失敗したら取り返しがつかないことになる!」という前提が強力に後押ししていましたが、いまや「もし失敗してもやめればいいじゃん、とりあえずやってみよう」という状況になりつつあります。

なんにせよ、やるからには明らかな工数の削減、時間短縮等のメリットが出せるというものにチャレンジするべきで、よくわからないけど便利そうだからやってみようという形でチャレンジするとやはり上手くいかないとは思います。