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何故ERPは画期的な概念だったのか

「全てを一つに」という当たり前のようで難しい情報技術

数十年前、世界を席巻したERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)という大規模基幹業務システムの出現で、IT業界は不景気にあえぐ他業界をしり目に活況を呈していました。数百人規模のプロジェクトチームが編成され、億単位のシステム開発投資がなされていた、まさに大規模システム開発のプロジェクトに私自身も何度か参加したことがあります。

最近のシステム開発事情にはそれほど詳しくありませんが、今はこのような大規模システム開発プロジェクトというのはあまりメジャーではないのではないでしょうか。クラウド環境で外部に構築されたシステムを利用する時代となったため、自社独自開発自体が減ってきたと思いますし、クラウド環境のシステムを利用する場合は独自のカスタマイズは不可能で開発チームを導入プロジェクトのために編成する必要もありません。

数十年前、世界有数の大企業各社がこのERPに多額の開発投資を行ったのは何故でしょうか。

「同じ情報は1つの場所に」という当たり前のことができない

こういう経験は無いでしょうか。パソコンで同じ内容のファイルが色々な場所にある。似たような内容の情報(スケジュール等)を複数の部署で管理していて、1か所を反映したら他の場所も更新しないとちぐはぐになる。ファイルの最新版がどこにあるかわからない(○○_最新版.xlsxのあとに○○_最新版(修正).xlsxが作成されるなど、どれが最新?と思ってしまうようなファイル名がつけられてしまったりすることはないでしょうか)。

サイバースペースでは、データのコピーが簡単にできてしまうがゆえに、情報が様々な場所で複製、分化していき更新の手間も増殖に比例します。

ERPはこの点を解消するため、「同じ情報は一つのデータベースで管理する」という考え方を打ち出しました。当時(今でもあまり変わっていませんが)、販売管理システムの情報を会計システムに打ち直すという作業を当たり前に行っていたものが、ERPでは販売管理システムも財務会計システムも同じデータベースから情報を取ってくることになりました。そうすることで情報を複数の場所で持つことでどちらが正しいのかわからなくなる問題や、別のシステムに手打ちで打ち直す事務作業の手間、その結果発生する様々なシステムから出力される経営管理レポートの矛盾などが解消されます。

「同じ情報を一つの場所に」を実現することは非常に難しい

この概念自体は非常にシンプルで正しい考え方です。しかし実現しようとすると様々な壁が現れます。まず、各部署単位でみると必要が無い情報まで含まれるデータベースを管理する必要に迫られます。例えば生産管理の場面では金額情報はさほど重要ではありませんが、後続の財務会計システムでは非常に重要な情報であるため、製造部門で金額情報の入力を強いられるなどです。製造部門では余計な仕事が増えたと感じ、財務会計部門では製造部門が適当に入力したいいかげんな金額情報に悩まされることになります。

また、システムにインプットすべき情報は「各部署で必要な情報のうち最も詳細なもの」になってしまうため、他部署から見ると「なんでここまで細かい情報を入力しなければいけないんだ…」と思うような情報の入力が必要になります。情報を必要とする部署と情報を入力できる部署が離れていると、そっちで勝手にやってくれと思いたくなりますが、そうしてしまうと結局情報が二重に管理されることになってしまいます。

「全体最適は部分最適の集積ではない」という事がよくわかります「全体最適は部分から見ると非最適」なのです。トヨタ生産方式の大野耐一氏が「モノづくりの真髄」という講演でも言及していた「無駄な在庫を増やすのは一番いかんことで、そんなことするぐらいならいっそ遊んどってもらわないかん」という話とも重なります。

こうして、全体が把握できない大企業ほど各々の最適化に囚われることになり、実際には情報の一元管理、集約化という課題はそう簡単には解決できず、現在でも課題として残っています。

本当に必要な情報とは

この問題を解決するためには①極限まで不要な情報をそぎ落とす、②情報のインプットを人の手を介さない、③各自が勝手に管理が必要な情報を増やさない、といったことが必要になります。

特に、情報のインプットが自動でなされれば入力の手間を劇的に軽減することができ、入力の手間を意識する必要が無くなります。しかしこれは自助努力ではなかなか難しくOCRやデータの自動連携等の技術の進歩を待つしかありません。

まずは、本当に必要な情報の吟味と管理する場所の限定を行い、情報管理を設計する必要があります。