節税や税務について知りたい経営者の方向けの記事

居住用賃貸不動産に自販機を設置することによる消費税還付スキーム

この方法は、すでに使えなくなっていますが、かつて居住用賃貸不動産を建設した時に課税された消費税を還付するスキームがありました。1億円の賃貸マンションを建設したら8%課税の時代であれば8百万円です。このほぼ全額が還付されるとしたらかなり大きいです。サラリーマンの年収で考えたら結構な額です。

このスキームはまず、居住用賃貸不動産完成の時期に合わせて課税事業者選択届出書を提出します。次に、同年に自動販売機を設置します。建物を課税期間ギリギリに完成させ、家賃収入は次年度以降に入るようにします。その年の課税期間には家賃収入が無いという状態です。

自動販売機の売上はせいぜい1万円程度かもしれませんが、立派な課税売上で、家賃収入がまだ入ってきていませんので最初の課税期間の課税売上割合は100%になります。このため、建物建設にかかった消費税は100%が還付の対象となります。

次の課税期間から非課税売上である家賃収入が入り始めるため一気に課税売上割合は減少します。自動販売機の売上で1,000万円以上になることはありえないので、免税事業者の対象となります。そこで、課税事業者選択不適用届出書を提出し、課税選択の効力を失効させることで免税事業者に戻ります。

課税売上割合が著しく変動し、第3年度に調整対象固定資産の調整計算の条件に引っかかりますが、その時には免税事業者に戻っているため調整計算を行わず、還付された消費税を再度払う必要が無くなっています。

還付スキームを使えないようにするために作られた調整対象固定資産の特例

このスキームの肝は、3年目に免税事業者に戻れてしまうという点でした。3年目に免税事業者に戻ることができなければ、調整計算をやらざるを得ず、大幅に下がった(というかほぼゼロになった)課税売上割合で再計算を行い、還付された消費税のほぼ全額(課税売上割合がほぼゼロに下がるため)を返還する必要があります。

課税事業者が調整対象固定資産の課税仕入れ等に係る消費税額について比例配分法により計算した場合で、その計算に用いた課税売上割合が、その取得した日の属する課税期間(以下「仕入課税期間」といいます。)以後3年間の通算課税売上割合と比較して著しく増加したとき又は著しく減少したときは、第3年度の課税期間において仕入控除税額の調整を行います。

国税庁 タックスアンサー No.6421

そこで、このスキームを使えなくするため、調整対象固定資産がある場合には3年間は免税事業者に戻れない、簡易課税制度も使えないというルールに変更されました。

ちなみに、「テナントビルとしての賃貸収入であれば課税売上だから課税売上割合が下がることも無いしいいんじゃないの?」という話が新たに出てきますが、こちらの場合でも、3年間は免税事業者に戻れないという縛りがあるうえ、基準期間が1,000万円を超えていたら、その後もずっと課税事業者です。

設立間もない間は免税事業者でいられたのに、その間も消費税を納めなければならなくなります。3年間納める消費税の総額が建物建設で還付される消費税を下回らなければあえて課税事業者になるメリットが無いため、ちゃんとシミュレーションを行ったうえで判断する必要があります。

税制が複雑になるほど穴が生まれイタチごっこが生まれる

このような税の抜け穴のようなスキームが生まれるのは、税制が複雑なためです。税制が複雑になればなるほど、歪みが生まれその歪みを利用した節税スキームが生まれます。例えば、もっとも単純なのは人頭税というもので一人幾ら払うという仕組みですが、例えば「年間一人百万円払う」というルールで、どれだけお金持ちでも貧しくても年間一人百万円、例外なしという税制だったとしたら誤解しようもありませんし、節税しようもありません。

しかしそれでは貧しい人は支払えず、お金持ちには少なすぎるといったような事情でいろいろと複雑な税制を作り出し、落としどころを探ろうとします。そうすると、ルールを逆手に取る隙が生まれ、逆手に取れるのであれば取ろうとするのが人情です。合法的に得することができるのにみすみす見逃す手はありません。しかし、それが過ぎると新たに上乗せで抜け道をふさぐための制度が追加され、ますます複雑な税制になっていきます。比較的新しい税である消費税はその最たるものなのかもしれません。