現場に行かずに監査をするとしたら…
今回のコロナの一件で「現場に行かない」「遠隔で作業を行う」という事に対して真剣に考えるきっかけとなった監査業務ですが、現実には現場に行かないというところまではなかなか難しいというのが分かった一件でもありました。
現場に行かずに監査を行うというのにも段階があり、「会計士が現場に極力いかない」というレベルから、「会計士も相手の担当者も出勤しない」という状態での監査まであります。
現場に行かなければできないこと
監査を行うにあたり、現場に行かなければできないことは「紙の資料を閲覧する」「大量にある紙の資料の中からサンプリングする」「紙の資料を基に担当者に説明し必要な資料の提供を依頼する」「クライアントのネットワーク内にあるシステムを操作してデータ抽出を行う」「世間話等の軽い話から状況を伺う」等々があります。
紙の資料をすべて電子化すれば大抵の問題は解決すると思いますが、問題は大量の紙の中からサンプルを抽出したり、大量の紙の中にある何かを探したりといった場合に、その紙をどう電子化するのか、電子化できたとして非常に重くなったデータをどうやり取りするのかといった部分になります。
また、監査論にある通り監査では結局はこの財務書類は問題ないという心証を得ることが重要になりますが、電子データで送られてきた紙の帳票やデータを現物を見る場合と同様に心証を得ることができるのか、ちょっとした疑問を遠隔で質問するのに抵抗があるという、心理的な問題があります。
紙の問題をクリアすることで技術的には調書の作成は可能
監査は情報を入手することで、財務書類が問題ないという証拠を集める作業がメインなので、個人的には完全に遠隔で監査調書を作成していくことは可能だと思います。ただ、そのためには会計士と経理担当者がWeb会議ツールやビジネスチャット、クラウドストレージ等々のIT技術に精通していく必要があります。
結局は、そういった技術に対する習熟がまだ未熟なために今までのやり方よりも調書作成に時間がかかるという事が会計士側が完全に遠隔でできない最も大きな理由だと思います。
完全に遠隔監査を実現するためには、全ての資料の電子化は必須になります。そしてそれら資料を自由に閲覧できる状況にするため、監査担当者と経理担当者が同時に入ることができる共有フォルダのようなものを作成しておき、必要な資料をそこに格納してもらいます。後はWeb会議やビジネスチャットを利用して連絡を取り、疑問点を解消していきます。システムへのアクセスは担当者にお願いしてデータ抽出をお願いするか、画面共有で操作を口頭で説明してやってもらいます。報告もWeb会議によって行うことができれば、完全に遠隔で監査することも可能です。
しかしこれはあくまでの技術的な話で、セキュリティ的な話になると途端に厳しくなります。取り扱うのは公表されていない会社の決算情報という機密情報であり、流出すれば大変なことになります。そういった情報を家のWifi等を経由してやり取りすることは少なからずセキュリティ面でのリスクを伴います。
そうなると、遠隔とはいえ事務所には行かなければならず、完全にリモートでというわけにはいかなくなります。事務所に行かなければ仕事が成立しないという話は、こちらで作成する調書を完全電子化しない場合にも印刷してファイリングする必要がありその作業のために事務所に行く必要が出てきます。
経理担当者は遠隔では難しい
仮に会計士側が完全にリモートで監査を行えるようになったとしても、会計士の質問に対応し、資料を準備する経理担当者の方は家から対応することは非常に難しいと思われます。請求書等のどうしても紙でしか存在しない資料があり、電子化するにしても電子化のために少なくとも会社に行く必要があります。全ての資料を電子化できたとしても、その大量のデータにアクセスする方法を整備して、会計士の要求に迅速に応えるためには相当考え抜かれたファイル管理が必要になってきます。
また、通常の経理業務も同時並行で行っているためそれらすべてをリモートで実施することは現実的ではないことから、どっちにしても現場に行かざるを得ません。今回のような感染リスクの回避を考えると、会計士側だけ完全リモートの監査を実現しても、経理部門が機能停止したら監査は不可能です。
今回、かなりリモートで監査をするというテーマでの訓練にはなったと思いますが、まだまだクリアするべき問題はたくさんあり、今後の第二第三のコロナ騒動に備えて引き続き検討を進めていく必要があると思います。